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水素エンジンの裏側で進められた、もうひとつの水素の取り組みとは

香川編集長 2021.07.06 UPDATE

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世界で初めて水素エンジンのクルマで出場した富士24時間レース。実は今回のレースで、カーボンニュートラルを目指して水素を活用していたのは、レーシングカーだけではない。ピットや、ファンが滞在するキャンプエリアまで、水素由来の電気でまかなっていたという。華やかなレースの裏側でどんな取り組みが行われていたのか、森田記者が取材した。

普段のピットの匂いがしない

ピット裏のスペースで森田記者を待っていたのは、ドライバーの「モリゾウ」として今回のレースにも出場している豊田章男社長。かつて香川編集長から「好きなクルマは?」と問われ、「うるさくて、ガソリンくさくて。そんなクルマが大好きですね!」と答えた根っからのカーガイでもある。そんな豊田社長に水素の印象を聞いてみると、こんな答えが返ってきた。

豊田
テストのときに、最初にエンジンかけますでしょ。そうすると、ピットで普段の匂いがしないな、って。(中略)水素という意味では、MIRAI(の給電)でここの電球もやってますでしょ。そうすると、普段のピットより静かだな、と。

ピット裏も、水素で給電

バックヤードで水素を使った給電システムについて教えてくれたのは、トヨタの水素担当、商用ZEV製品開発部の浜田成孝氏だ。ピットに電力を供給しているのは、ピット裏に止められた燃料電池車(FCEV)のMIRAIだという。ここではMIRAIから取りだした電気をホンダの大型外部給電器でピットへと送り出していた。

実はFCEVPHEV(プラグインハイブリッド車)、BEV(バッテリーEV)といった電動車から家庭用電源を取り出すための「V2LVehicle to Load)」という規格が整備されており、MIRAIもこの規格に対応しているため、他社の外部給電装置もつなぐことができるのだ。こうした互換性は、水素社会を実現するために欠かせない要素で、災害時の避難所など非常用電源として使う場合にも重要になる。

電気のコードをたどっていくと、ドライバーの控室があった。ミーティング中のドライバーたちが見つめる画面、そして部屋の空調もすべてMIRAIから送り出された、水素由来の電気でまかなわれている。

森田
じゃあ、もうピットの裏も水素ですね。

浜田
そうです。ピットの裏も水素です。

ピット脇に止められていた白いグランエースも、どうやらMIRAIのユニットを組み込んだFCEVのようだ。こちらは机やモニターを備えた移動オフィスになっており、走行時はもちろん、中で仕事やミーティングをするときも二酸化炭素(CO2)を排出しない、カーボンニュートラル仕様だ。

その隣にあったのは、同じくFCEVのキッチンカー。冷蔵庫やIHクッキングヒーターを備え、炊飯器でご飯も炊ける。

森田
カーボンニュートラルに貢献しながら、たこ焼きを焼くことができる、と。

浜田
はい。

CO2が出ないという水素の特性を生かし、多くの方のお役に立ちたい」と浜田氏は力強く語った。

水素の可能性をお客さまに体験していただきたい

パドックから少し離れた場所にある「CHILLOUT BASE 2021」。こちらはキャンプをしながら24時間レース観戦を楽しめるというキャンプ・グランピングエリアだ。GRブランドマネジメント部の佐藤潤氏が出迎えてくれた。ここにはMIRAIのほか、FCEVバスのSORAが止められており、自由にスマホを充電できるほか、大型ビジョンでレースを楽しむこともできる。もちろんすべての電気はFCEVが供給している。

佐藤
必要な力は、すべてFCEVでまかなっております。なので、このエリアには発電機はひとつもありません。

森田
小さな水素社会が実現している。

佐藤
おっしゃるとおりだと思います。

今回の展示を通じて、水素そのものの可能性をお客さまに実体験として感じていただきたい、と佐藤氏。カーボンニュートラルに向けての選択肢はひとつではなく、たくさんの可能性があると強調した。

10年後に、ちょっと変わった景色ができるんじゃないか

水素でレーシングカーが走り、水素でピット裏やキャンピングエリアの電力をまかなっていた今回の富士24時間レース。「まだこの環境は普通じゃないけど、これがどんどん改善されていけば、普通の世界になっちゃうんじゃないかな」と豊田社長。今、この取り組みをしたことが、将来の水素エンジンや水素社会の基礎になる。10年後に振り返ったとき、「ここまできたのは、20215月の24時間レースでこの取り組みをしたからだ」ということを、しっかりメディアとして伝えてほしい。豊田社長はそう森田記者を激励した。

豊田
「あのおじさんたちが、世界で初めて水素エンジンを走らせて、何が解答かも分からないのに、チャレンジしていたよね」「だけど、そのチャレンジしている姿は、悲壮感があふれてるわけじゃなくて、なんか楽しそうでした」というようなことを、伝えてほしいと思いますね。

その意思を持って今一歩踏み出したわけだから、たぶん、10年後はちょっと変わった景色ができるんじゃないかな、と思います。

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