トヨタイムズ

「トヨタは宇宙をやるべきだ」共同開発のきっかけは熱い想い

香川編集長 2020.09.11 UPDATE

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トヨタが宇宙開発、有人月面与圧ローバ(ルナクルーザー)開発に乗り出すきっかけとなったのは、情熱あふれる2人のメンバーだった。トヨタの社員とJAXAの職員。お互いまったく接点がないころから、それぞれ個別に「トヨタは宇宙をやるべきだ」という信念を抱いていた2人。その想いはやがて出会い、世界を変えるかもしれない一大プロジェクトへとつながった。なぜ2人はトヨタで宇宙開発をやりたいと思ったのか。香川編集長がインタビューした。

トヨタを宇宙開発のど真ん中に巻き込みたい

トヨタとJAXAの共同作業のきっかけをつくった2人と香川編集長

香川
トヨタとJAXAの共同作業のきっかけをつくったのがこちらの2人です。きっかけは、この2人!

どうも初めまして。よろしくお願いいたします。トヨタイムズ編集長、香川でございます。

大村幸人(トヨタ自動車 先進技術開発カンパニー 月面探査車開発)
トヨタ自動車で立ち上げからやっています、大村です。よろしくお願いします。

末永和也(宇宙航空研究開発機構 国際宇宙探査センター)
JAXAの末永です。よろしくお願いします。

香川
先ほど大村さんのお言葉の中に「立ち上げから」という言葉がいきなり出たんですけど。

大村
もともとトヨタの中で「20年後、30年後にトヨタがどういう会社であるべきか」「どういう製品やサービスを提供していないといけないか」というのを考えるワーキングがありまして、そこに参加していたのがきっかけです。

その中で20年後、30年後って考えたとき、ある程度、地上はトヨタとしてランドクルーザーとかのクルマで行ききっているかな、と。その先を考えたときに、次のシフトとしては、地球の外、宇宙ではないかということで、最初からローバというよりは、「トヨタ×宇宙」で何かできないかということを考え始めたのがきっかけです。

香川
それは何年くらい前ですか。

大村
それは4年前ですね。

香川
そこから末永さんにつながっていくのは、どういう流れだったんですか。

末永
私は就職したときからずっとJAXAにいるんですけど、主にこちらの有人部門という宇宙飛行士とか、国際宇宙ステーションですね、こちらに日本の宇宙実験棟「きぼう」というのがあるんですけど、こういった有人宇宙活動をする部門で、法務調整とか国際調整、それからトヨタに行く前は海外に駐在したりと、比較的いろいろな部署に行っていたんですけども。

その中で、3年前ですね、2017年の7月にトヨタに出向することになりまして。私はJAXAからトヨタに出向する第1号で、JAXAから「行け」と言われて行ったわけじゃなくて、自分から「トヨタに行きたい」と手を挙げて、トヨタで宇宙プロジェクトを立ち上げて。トヨタを宇宙開発のど真ん中に巻き込む、参入してもらうことによって「日本の宇宙開発を変えたい」という思いがずっとありまして、これを実現するということで。「宇宙チームがある」と、ちょうど同じ時期だったんですけども、こういう話を聞いたので出向しました。

自動車会社が宇宙に参入する意義

宇宙プロジェクトをなぜトヨタと組もうと思ったのか

香川
末永さんの中で、宇宙プロジェクトをつくるのに自動車会社じゃなくてもよかったと思うんですよ。そのプロジェクトを(なぜ)自動車会社と組もうと思ったのか、そして、なぜそれがトヨタでなければならなかったんでしょうか?

末永
一つは、自動車の技術を宇宙に注入することによって日本の宇宙開発の技術のレベルを各段にアップさせたいというのがありました。

もう一つは、宇宙開発をもっと身近なものにしたいっていう想いがあって。こういう宇宙機っていうのは一点物で、すごく数が少なくて、クルマでいうと、スーパーカーとかF1カーみたいな、そういう本当に特別なクルマなんですね。手作業もたくさん入っているし。

でも、これだと若田さんみたいな一部の人しか宇宙に行けない。そうじゃなくて、私たちがやりたいと思っているのは、宇宙をもっと身近なもの、誰でも宇宙に行けるような、そういう時代にしたい。

そのためにはトヨタのように良品廉価というか、性能のいいものを同じ品質で、しかも手の届く価格でたくさんつくれる会社、そういう自動車会社に参画してもらうっていうのが大事だというのがあります。

大村
社内にはいろんな反応が実はありまして、すごく応援してくれる方々も当然いたりしますし。とはいえ、これってドライな見方をすると「商売になるのか」っていう。それはごもっともな話であって。

そのときに、たまたま僕が一番はじめに、入社して配属されたときの上司がワーキングに関わっている方で、その上司が「分かった。じゃあ、ワーキングからはスピンオフして、うちでやってみたらどうだ?」と言ってくれて。そこが大きいポイントだったなと思ってます。

香川
それがどうやって今に至って、それこそ寺師CCOに、上まで持っていけるところに行けたのか、何かきっかけみたいなのはあったんですか?

大村
今まさに、この国際宇宙ステーションを運用している世界中の宇宙機関の共同体みたいなのが月を目指しているという話があって。

なぜ月に行くのっていう話になるんですけど。最終的に火星に行くっていうことを目指しているんですが、月には実は水とか氷があります、と。水を分解すると水素と酸素になります。そう考えると「あれ、(月は)地球以上に水素社会だよな?」と。そうすると、トヨタの強みの1つであるFC(Fuel Cell:燃料電池)とすごく親和性がある惑星だし、親和性があるストーリーになるなと確信をもてたというのが一つ。

もう一つは、これは仮にトヨタがやらないとしても、ほかのメーカーがきっとやるだろう、と。もうそういう計画があるわけですから。そのときに、「こういう計画がある」ということを知っている自分、かつ、モビリティカンパニーというか自動車会社にいて、「やるべきだ」と一度は判断している自分がいる中で、それを例えば、自分が携わっていない別の会社の車両が月を走っているっていうのを見たときに、一生後悔するだろうなと思いました。

なので「エンジニアの夢」というか、エンジニアとして「やれるチャンスがあるのに、なんでやらないの」っていうところ。その二つですね。

香川
シリコンバレーでね、TRIの本家で僕もインタビューをさせていただいたときに、変わった研究者がいたんですよ、トヨタの社員なんだけど。「元はどこにいたの?」って言ったら「NASAにいた」っていうの。

「NASAだと予算が足りなさすぎるからトヨタに来た」っていうね(笑)。「トヨタはいいのか?」って聞いたら「自由にできる。どんなことも研究できるから面白くてしょうがない」って。マックス君っていうインド人の研究者がいたんだけど。

「日本しかできない」から、我々がやる

今、人類は地球の低軌道から、月とか火星に活動領域を拡大しようとしている

香川
とりあえず2029年の、寺師さんが言われている「月面に有人与圧ローバを降り立たせる」というのは実現できるんでしょうか?

末永
まず国際宇宙ステーション、こちらにある「きぼう」のエンジニアリングモデルといって、ほぼ今宇宙に行っている宇宙ステーションにくっついている日本の「きぼう」と同じ大きさ、同じ機能になるんですけども。

香川
実物大。

末永
実物大です。これは地球の低軌道、高度400キロくらいをずっと回っているんですけど、今、人類は地球の低軌道から、月とか火星に活動領域を拡大しようとしているんですね。

まずは月の周回軌道にこういう宇宙ステーションみたいなものをつくろうとしている。「ゲートウェイ」というんですけど、これを大体2023-2024年くらいからつくり始める。

その後、人が月に着陸して、着陸した後、人が月面で探査をする。さらに、そこに2030年代から拠点をつくる、月面の拠点をつくる、という大きな計画を、これは1カ国だけではできないので、国際協力でやっていこうとしているんですね。

国際協力でやるということは、各国が分担してやるんですけども。例えば「人を送る有人のロケット」はアメリカやロシアじゃないとできません、日本はそこに物資を運ぶロケットをやります、着陸機は別の国がやります、日本がやるかもしれないし。

さらに月面を走るローバ、これも日本のためだけじゃなくて、国際的な計画の中で必ず必要な機能になるんですね。それぞれの国が分担するんですけど、それは協力でもあって競争でもあるんです。

要は「一番重要なエレメント、要素を自分たちの国で分担したい」というのがあって。じゃあ日本は何を取るか、何をやるかというときに、いくつか得意な技術があるんですけど。その中で日本といえば何の技術が得意かっていうと、こういう「きぼう」で培った有人の宇宙滞在技術、それと、やはり自動車。

香川
そうだね。なかなか、競争に勝たなきゃいけない、トヨタ自動車としては威信がかかった…。

大村
負けられません。

末永
有人与圧ローバは、2029年ごろ打ち上げる。さらに月面で1万キロ以上走らないといけないんです。

香川
そうですよね。

末永
しかも宇宙飛行士、実際に人を安心安全に移動させないといけない、という技術も必要ですし、実際にそこで5年以上、1万キロ以上走らせるっていう技術は、さっき大村さんから「日本じゃなければ他がやるかも」とか「競争だ」という話もありましたけど、私は、このプロジェクトの立ち上げに関わった人間としては「日本にしかできない」と思ってます。

だから「日本でもできる」とか「日本がやりたい」じゃなくて、これは人類にとって日本しかできないプロジェクトだから、それはJAXAがやらないといけないプロジェクトだし、トヨタがやらないといけないプロジェクトじゃないかと思っています。

香川
一番大きな言葉で、すごいね。

大村
はい。

月面開発は全人類のため

それぞれの立場でできることを精いっぱいやる

末永
最初は本当に夢で、3人で語ってたものが、たくさん仲間に参加してもらって、ある意味、責任が重たくなってきているというか、ちゃんと立ち上げないといけない、成功させないといけないということで。だから、逃げられないなと思ってます。

なので今、大村さんと私、それぞれの立場でできることを精いっぱいやるというところなんですけど。まずは、このプロジェクトを立ち上げてそれを成功させることが大事なんだろうなと思っています。

トヨタがこの与圧ローバに取り組む意義っていうのはいくつかあるんですけども、その先にあるビジョンですね、「トヨタにとっての月面探査のビジョンって何だろう」というのを、このプロジェクトが立ち上がってからプロジェクトチームで検討したんですけども。それが「ムーン・フォー・オール(Moon for All)」という考え方なんですけど。

どういうことかというと、2030年代、40年代に拠点ができて、普通の人が普通に月面に暮らせる時代がやってくると。それを目指していますと。そうすると、そこに向けて開発する「月で培った技術」とか、「実証した水素社会」。その成果というのは、ホームプラネットである地球に還元することができると思うんです。そうすることによって、より良いクルマづくりとか、持続可能な社会の実現、こういったところに還元することができると思います。

もう一つ、月を開拓することによって得られる成果としては、「第2の地球」といわれている、月の次の目標地点である火星。火星に向けて人類が移動するときの、1つのテストケースですね。月の成果っていうのは火星に生かせる。

だから月面活動とか月っていうのは、月に住む人だけのものではなくて、地球のためでもあるし、火星のためでもある。

さらに言うと、この与圧ローバとか月面活動に参加する人だけじゃなくて、今、地球に住んでいる私たちにとっても非常に重要なフィールドでもあるという意味で、月は皆さんのものです。さらに言うと、地球と火星のためのものです、と。その考え方をまとめたのが「ムーン・フォー・オール」という言葉です。

香川
あっという間に来ますよ、2029年なんて。

大村
僕らも時間はないと思ってます。

香川
あっという間、本当に。

大村
はい。

香川
その意味では、すごく楽しみだし。もう何年前なの、月面にアームストロングが降り立ったのは。あのときから、われわれがやってきたことが進んでるんだか、進んでないのかよく分からないんだけどさ。

まあ、確実にいろいろな宇宙船は打ち上げられてるわけで、いろんなことを宇宙で探査、それこそ土星探査機とかをやったりとかというような中で、また月に戻って何かをやる、というのはすごくいい着想だと思うし。末永さんが何度もおっしゃられた「日本だけができること」、それがトヨタであるっていうことは、すごく今のトヨタのスタンスに似合ってる気がするんですよね。僕が1年半見てきて。

社長もその形を望んでいるし、すべての企業が今、全部一丸となると。あるいは、メーカーごとに分かれるんじゃない、すべてが協力するんだ、と。(一丸となって)環境保全も含めたことに立ち向かっていく、ということを言われているので、そういう意味では「日本が」、そして「トヨタが」っていうのは、とても分かる力強い言葉として受け取りましたし、月面に有人与圧ローバが降り立つ日を心待ちにしております。期待しております。

大村
はい、ありがとうございます。

末永
ありがとうございます。

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