トヨタイムズ

香川編集長が見たトヨタ生産方式の本質

香川編集長 2020.08.20 UPDATE

INDEX

船橋という、名古屋の雨ガッパメーカーが「医療現場を助けたい」とはじめた医療用防護ガウンの生産。その志に多くの企業が共感し、トヨタも支援の手を差し伸べた。そして防護ガウンの生産という、自動車とはまったく違う生産現場に「トヨタ生産方式」を応用した結果、1日500着だった生産枚数は、1日5万着にまで増えた。そんな奇跡とも呼べる仕事さえやりきってしまう、トヨタのモノづくりとは一体何か。香川編集長が取材を振り返った。

モノづくりの原点が最先端の医療現場を救っている

Q. 船橋での取材の感想をお聞かせください

香川
古い建物、こじんまりした建物だし、本当に名古屋の町工場、いってみたらトヨタという会社とは比較にならない規模の会社に、その比較にならないような小さな会社の出した人差し指を、トヨタの社長がバッてとったことの不思議さをまず感じましたね。会社全体を見て。「あ、ここなんだ」と思って。

働いてる人たちもすごく静かで、誠実そうで、粛々と今までいろんなことをやられてきたんだろうな、ということもすごく感じましたし。雨ガッパをつくってきた生活が一変して、防護ガウンをつくる生活に、今驚かれていると思うけど、しかし、すごく確かな一歩をここは歩み出したんだなという意味では輝いて見えた感じがしましたね。

日本のモノづくりに関わった中小企業の原点を見たような感じがしますね。昭和のころは当たり前だったかもしれないけど、パソコンの前でリモートでっていう、今そういう時代になって、何があってもすぐスマートフォン一発で解決する時代になる前の、日本の礎を築いた生産工程がそこにあったというのを久しぶりに見た感じがしましたけど。それが今、最先端の医療現場を救っているというのはすごく面白い二重性だなと思いました。

技術だけでなく、心を鍛えている

Q. トヨタ生産方式って何だと思いました?

香川
最後のまとめのときに言った、技術を生産しているのはもちろんですけれど、心を鍛えている。人の心をとんでもなく限界まで引き上げる。それも、スパルタとかじゃなくて、「できるかな、できないかな」じゃなくて、確実に「できる」ためだったら、褒めようが何しようが絶対にそこまで達成させるという。そういう目的のために、必ず達成するために目標を掲げて、そこに対して人の心をうまく使いながら誘導していく。何かを生産するというよりも、目標に対してそこに確実に導いていく心の作用のような気がしました。

達成させるための精神構造の鍛え方っていうか、非常に不思議でしたね。技術的なことは逆に何もないんだよね。もちろん、あるんだけど。保全の人たちが関わっていることもそうだし、現場で関わっていることも確実に技術のアイデアをねん出しないとそれができないんだけど、まず心を決めておいて、そこに技術をアダプトさせていく。(心と技術を)植え付けていって、その両方を動かしながら、それを両輪にしながら達成させる。確実に。

だってトヨタとまったく関係ない仕事の人たちなんだから、今回に関しては。雨ガッパをつくってる会社に「どうやったらガウンつくれますか?」って。自動車会社の人が来ましたって、普通はおかしな話でしょ? それで現地・現物じゃないと(アイデアを)調達できないし、そこで、アイデアを出してるわけだから。「まずこうだよね」「まずこうだよね」と。そこにフッとしたひらめきで現地・現物じゃない、自分が持ってるキャリアから来る「あのときのあの瞬間のあれだな」っていうのがたぶん降りてきて、それを応用してるっていう。それを現地の、これだな、これだなっていう。

ものすごく経験と、英知と、精神力がないとできない。その人財をつくり上げてるトヨタがすごいですよね。「何人もご用意できます、そういう方」っていう会社じゃないですか。どんなタイプの要求にも答えるっていう。すごいですよ。

社長がモビリティカンパニーにトヨタがなるって言ったけど、どういうことなの、本当になるの? ってところから始まったじゃないですか、このトヨタイムズって。今日はある種、その反面の答えが戻ってきたような気がするんですけど。

「モノづくり」という土台は変わらない

香川
自動運転だったり、ロボティクスだったり、AIだったり、あるいは、電池燃料による運転だったり、ウーブン・シティだったり、いろんなものというのは、トヨタのハードがある上での、1つ1つのソフトへの転換であって、ここに丸ごとごっそり変わるわけじゃなかったんだなと。もちろん、変わってるんですよ、時代は今そこを動かさなきゃいけないから。

ただ、その下で常に底流で流れてるモノづくり、現場のモノづくりということを、僕は初めて生で拝見して、「ここは変わらんのだ」と。ここは変わらないけど、モビリティカンパニーになるっていう上澄みのところは塗り替えていきますけど、機体の中は変わりませんよ、ブラックボックスはこのままやっていきますよというのを、その強みを今日は、特に保全の語り口だったり、現地・現物のつくり方、それからノルマの提示の仕方、それで人がどう動いていくか、その社長の息子まで変えてしまった現実、舟橋社長の。ここら辺を見ると、トヨタという会社はモビリティカンパニーになるんだけど、モビリティカンパニーにならないんだなと思ったの、どこかで。

そういうことじゃないんだと。この会社が持っている、もはや自動車会社じゃないんですよ、だから。人の心に奇跡を起こして、何か人に幸せを与えて、ガシャンガシャンそれを伝えていく会社が、自動車をつくっていたんだけど、自動車をつくることでそういう会社になったんだけど、それが今度、モビリティカンパニーという時代の要請、ニーズに合った変容をしているだけで、その下にあるものづくりというものは、もうハード化されてて動かさない。

だから生産の現場の方々にウーブン・シティというのを一番、社長が語りたくて。まだコロナになる前に熱く語っている映像を見ましたけど、あれなんかも、どこかで生産の人たちも分かってる。部品の人たちも分かっていて、それを社長も分かっていて。その不思議な構造を今日、反面の今まで隠れていた部分、もしかしたら忘れてしまおうとした部分、僕が忘れちゃってもいいんだなと思った部分が、それがなくなっちゃうんじゃないかってどこかで思ってたんですけど、なくならないんだなというのは(感じました)。「これが基本なんだな」と。

ものづくりっていうのは技術・技能の1つだけど、この心のメカニズムっていうのかな、トヨタのみが持つ強み、パーセンテージ的にこの心を持っている人が異常に多そうなこの企業に関しては、何をやっても達成していくんだろうなと思うわけ。

「ピンチが来たときこそ、腕が鳴る」の意味

香川
もちろん、困難なことはあるかもしれない。困難なことは、今回のこの思いもよらないコロナの状況。これも予想もしなかったことだと思います。でもこれも乗り越えていって、いろんな変容を見せながら、このモノづくりの土台を前に進めながら、キャタピラにしながら前に行くんだろうなと。だから、楽しみですよね。

だから、社長が言ってるけど「こういうピンチが来たときこそ、腕が鳴る」って、そう言ってる意味が分かるし。「僕自身が何も、『え?』と思ってない」って(豊田社長が)言ったじゃないですか。これが2011年との違いだと。僕自身が落ち込んでない、と。「大丈夫」っていえる。「これが違いです」と社長が言われるのはここなんだなと。

その根っこのことを、技術的にいえば「トヨタ生産方式」というんだろうけど、僕はこのトヨタ生産方式を今日見てみて、何と名付ければいいんだろう、トヨタイムズ的に何か名付けられる気がするんだけど、もうちょっと見てみたら何か名付けられるかもしれないね。

1つ1つのねじを締めたり溶接したりしている、現場にいる人たちが経験と英知を積み重ねて、何に対しても応用できる。ここですよね。技術と、技能と、精神。また精神が大きい、100できたら200できるでしょ、200できたら300できるでしょって、本来ならすべての産業に、それは言えないはずなんですよ。でも彼らはすべての産業に対してそれが「できる」といって、そのためのアイデアを出してくるわけですから。できなかったものができてくる、達成していく。マクロな戦いも、ミクロな戦いも全部やる。それも結局、「ハサミはここに置きますよ」ってところから始まるんですよ、きっと。

1人の家の家系を、後継ぎをつくったんだよ。ハサミをどこに置くかってことで。こんな話ある?最後、ハサミに寄っていく絵でラストカットだよ、この映画。

これは映画です、映画です。その奥でぼやけてお父さんと息子が抱き合っている、ジャジャボケ、ピンは手前、手前のハサミ。ね、すごいですよ。「トヨタ生産方式」っていう映画のタイトルも意味不明。どういう映画見せられるんだっていったら、親子の感動の話。最後、ラストカットはハサミ。

タイトルです。タイトルです。度肝を抜かないと、タイトルは。

——抜きすぎじゃないですか?(笑)

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