トヨタイムズ

トヨタが老舗カッパメーカーに伝えた「本気のものづくり」

香川編集長 2020.08.17 UPDATE

INDEX

7社合計で日当り5万着もの医療用防護ガウンを生産する有志連合。その発足のきっかけとなったのが、名古屋の老舗雨ガッパメーカー、船橋株式会社だ。さらに当初は1日500着しかつくれなかった船橋の生産現場をトヨタのチームが支援。伝家の宝刀「トヨタ生産方式」を活用して、現在はなんと1日6000着もの生産を達成している。

トヨタは老舗カッパメーカーの生産現場をどのように変えていったのか。そして従業員たちはトヨタのやり方をどう受け止めたのか。香川編集長が取材した。インタビューに応えてくれたのは以下の4名だ。

・船橋 代表取締役 舟橋昭彦氏
・船橋 開発室 森貴司氏
・トヨタ グルーバル生産推進センター ベスト技能推進室 鈴木浩氏
・トヨタ グローバル生産推進センター 保全マネジメント室 古井一彦氏

大量生産がこんなに難しいとは知らなかった

香川編集長
今日見てきて、本当にこれだけの改善があり、びっくりすることがたくさんありました。でも、それが決して大きな改善じゃなくて、小さなことだったりするのに、大きな結果が出て、非常に驚くような経験を僕もさせていただいたんですが。今回の有志連合との出会い、そしてトヨタとの出会いによって驚いたこと、感じたことを教えてください。

舟橋社長
まず有志連合については、「仕事を出す側」「受ける側」、昔でいうと「元受け」「下請け」という立場ではなくて、それぞれの分野での強みを生かす。われわれは溶着、ある会社では畳みとか、それぞれの強みを生かしたアイデアをお互いに学び合う。だから私どもの会社もほかの会社に畳みのやり方というのを学びに行ったりとか。

当初から100倍になったのは、お互い学び合う姿勢、お互いに改善し合うことで、ここまで来られたんだなと思っております。

トヨタさんが入ったおかげで、ネットワークづくりというか、(各社の)指導や全体の生産管理、大量生産をするとことがこんなに難しいものだっていうことは、私は分からなかったです。そこをすべてトヨタさんに教えていただいていますので、こうした何万もの生産というものに結び付いたのではないかなと思っております。

香川編集長
最初はトヨタの方々が来るというのに、すごく「あっ」て思われたと思いますけどね。

舟橋社長
思いました。

香川編集長
どうでしたか、実際?

舟橋社長
思ったことが2つあって、最初は1人、2人で来ると思っていたら、いきなりおっちゃんが8人来たというのも驚きましたし。

香川編集長
(笑)

舟橋社長
「次の日から入ります」となったときに、8人どころか20人、30人来るということで、ここまで力を入れていただけるか、ということにびっくりしたというのと。

トヨタさんがすごいなと思ったのは、「学ばせていただく」ということで、すべて制服を脱いで、一緒になって裁断をする、一緒になって溶着をする、一緒になって畳みをする。それをトヨタさんの課長であるとか、部長とか、役職を取っ払って、朝から晩までそれを粛々とするという姿に自分は感動しました。

香川編集長
工場長にお伺いしたいんですけど、僕、目に見えて枚数がつくれるようになるという、本当に社員にとってはこんなに喜びはなかったと思うんですよ。その技術を与えてもらった、トヨタから。彼らのいろいろなモチベーション、心の模様も含めた成長だったり、人づくりも含めたことだったりというのを目の当たりにされたと思うんですけど。

森工場長
われわれはこんな大量生産をやったことないと、さっきも申し上げたんですけど、最初は500枚。それが1000枚になり、2000枚になりました。以前のわれわれでしたら、2000枚になった時点でたぶん満足してたんじゃないかと思います。

高橋さん(トヨタ 生産調査部 高橋智和氏)が「船橋だったら5000枚いける」って言ったとき「何言ってるんだ、この人?」って正直思ったんですけど。6月の頭に3000枚になったんですよ。3000枚になったときは本当に「もう限界だ」と思ったんですけど、今はもう6000枚できるんですよ。

香川編集長
すごいですね。

森工場長
その原動力になったのが、「みんなが昨日の記録を超えよう」という気持ち。モチベーションをずっと維持していくれているというのが、大きな原因かなと。日々成長している自分に、それぞれが喜びを感じて成長していっている姿を見て、本当に頭が下がる思いです。

香川編集長
昨日を超えるというのはすごい。

森工場長
毎日のように「もう私、限界」「もう無理」って言うんですけど、次の日には、またクリアしていくんですよ。「自分で限界を決めるな」ということは日々言ってるんですけど、それを達成してくれている皆さんには、本当に感謝したいです。

香川編集長
素晴らしいですね。それを自分の会社じゃなくて、ほかの会社でやっているトヨタさんの意味が分からないんですけどね(笑)。まったくの赤の他人だった会社に、それだけトヨタ生産方式を植え付けて、結果を出して、今に至るということをお2人、そして高橋さんがやられたわけですけど。

トヨタ鈴木
改善点は無限で、例えば「1000枚いったら終わり」ではない。「1001枚いこう」「1002枚いこう」これの繰り返しだと思うんですね。それには自分たちの知恵が要る。知恵にはお金は要らないですからね。

「どんなことをやれば、もっと楽になるんだろう」という、ちょっとの積み重ねなんですね。大きなことは今回全然やっていませんから。さっき言ったように「ハサミはここに置け」とか「こうやれ」とか、そのレベルですね。

生産管理板は、人づくり

トヨタ鈴木
あとは、モチベーションもあります。裏にありますが「生産管理板」というのを…。

香川編集長
なんですか、生産管理板って?

トヨタ鈴木
初めの3週間くらいは全社、7社を回りました。だんだん生産が出るようになってきた。そこで、その紙(生産管理板)をつくって7社を回りました。言いたいのは「1時間当たりに何枚できるんですか」ということ。工程別に、「延反」「裁断」「溶着」「畳み」といったときに、例えばこの1時間に普段150枚で、今130枚ということは、「20枚分何か起きているよね」と。止まっているなら、止まったことをちゃんと書いてくれ、異常をちゃんと出そうと。

香川編集長
「なぜ止まってるのか」を言ってくれと。

トヨタ鈴木
はい。数字を追う前に、止まったことをちゃんと顕在化させて、それを改善しようと。

例えば、さっき言った材料、ロールを変えましたよね。初めは15分でした、あるときは10分です。「この差は何」ということ。今度は改善して7分になった。改善、改善を続ければ、どんどん時間が縮まるでしょ、って。まず止まった時間を顕在化してくれ、それを改善に導く。その繰り返しです。

今日のベストじゃない。3カ月間、例えばある工程は150枚出ましたと。すると、ずっとターゲットは150枚。今日改善して150以上出れば、明日からターゲットは151枚。常に前に前に行くんです。それにはモチベーションも上がりますが、やっぱり改善ですよね。

モチベーションだけでは上がりません。「モチベーション」プラス「カイゼン」を組み合わせて、まずは異常を見せろ。それを改善していこう。後は、われわれは「ベスト管理」って言っていますけど、ベスト、ベストを狙っていこうという形で、今言われたように500枚から5万という形になってきました。

「生産管理板」というのはトヨタの現場にはどこでもあります。ところが(船橋に)われわれが入ったころは、「生産記録板」なんですよ、数字だけを追っていたと。数字だけを追うと不良品も出ますし、欠品も出ます。「それは違うよね」と。異常が起きたということは、出るべきものが止まっているんでしょ。その問題点を書いてくれ、その問題点を改善していこう、と。

この生産管理板も、実をいうと人材育成なんですね。これによって人を育てる。われわれの現場も生産管理板がキモとなっています。それはトヨタに入ったときから。そうやって先輩に教えられながら。「改善を止めない」ということで、ずっと頑張っています。

香川編集長
でも、それに対して「できない」とか「イヤだ」っていう子たちもいるわけじゃないですか。

トヨタ鈴木
それはある種の成功体験ですよね。「君はそうやって言うんだね。じゃあ、その意見をみんなで改善しましょう」と。で「結果出たよね」となる。

意見をもらったら応えなきゃ、われわれは。聞くだけで「はい、終わり」じゃだめですよね。必ず意見を聞き出す。そして応えるという、このサイクルをずっと回しています。

香川編集長
これは今までのトヨタである程度結果を残してきたからこそ使えるマニュアルだと。

トヨタ鈴木
はっきり言って、私はこれで生きています。

香川編集長
これで生きています(笑)。生産管理板で生きている?

トヨタ鈴木
はい。これで国内、世界を回っています。

香川編集長
なるほど。これさえあれば何でもいけると?

トヨタ鈴木
あとは改善力ですね。

絶対に設備が原因でラインを止めない!

香川編集長
改善力。一方で、人材育成とともに現場の改善・保全で、先ほど一緒に機械の1号機というんですか、古いやつを見ましたけれども。あれは直せと言われても…。若手の方が驚いてましたけど、メーカーには絶対持っていかない、と。「自分たちで絶対直せるんだ」という意地というのは、どこからきているんでしょうか?

トヨタ古井
実際、今回の場合はスピードを持ってやらないといけないわけです。こんな図面も何もないものを、どこかのメーカーに聞いて、探して、調べてやっても(難しい)。「自分たちでやったほうが早いんじゃないか」というところから始まりましたね。

香川編集長
なるほど。これだけ大量のものを生産したことがなかったと。大量のものを生産するプロフェッショナルの会社として、大量のものというのは大変さを伴うという実感はございますか?

トヨタ古井
ありますね。トヨタも車を世界で1000万台、今年はちょっと少ないですけど。そういう中でほとんど自動化されています。私の担当はボデー、溶接のボデーなんですが、大体、元の職場でいくと3000台くらいの産業ロボットがいまして、その3000台を管理していく。その設備の原因で生産を止めちゃいけないよね、と。だからちゃんと計画どおり出せるために、どうするんだ、というところをわれわれ保全が考えます。

人を増やして、設備を増やして、ゆっくりやっておれば、たぶん5万枚でもコストをかければ出るんですけど。そこをいかにコストを落として、生産性を上げるかっていうところで。設備を止めない、われわれは「可動率(べきどうりつ、動くべき時間に対して実際に稼働した割合)」と言っているんですけど、そういったところをしっかり見ていくと。

香川編集長
その設備を止めないっていうところに、すごい意地を持たれているというのは、ものすごく思ったんですけれども。

トヨタ古井
設備というのは、壊れる。放っておけば壊れちゃうんですよね。

香川編集長
そうですね、機械ですから。

トヨタ古井
だから「保全ががんばってラインを止めんかったな」「今日は1日、計画どおり出せたな」と現場の方に言ってもらえると、実際うれしい。それがモチベーションに、僕らの若いころはなっていましたけどね。

香川編集長
僕はトヨタの社員の方、この立場に上られている方にいっぱいお会いさせていただきましたけど、全員共通していえるのは「絶対に諦めない」「絶対にやってやる」という鬼の精神力なんですよ。全員そうなんですよ。

でも、若いころは僕もそうでしたけど、絶対違ったと思うんですよね。これって経験で上にいる、いわゆる「おやじ」たちから教えてもらって、いつの間にか伝わってきたっていう実感がございますか、2人とも?

トヨタ古井
そうですね。

トヨタ鈴木
そうですね。習うということはないですね。チャンスを与えてもらい、自分で改善して失敗しても、おやじがちゃんとフォローしてくれた。おやじが知恵をくれた。この繰り返しだと思いますね。「これだからこうだ」なんてないですね。

いきなり大リーグの監督とコーチが来た

舟橋社長
今振り返れば、うちの会社は本当に高校の野球同好会みたいな、なんとなく和気あいあいとして仲良くやって「楽しくやっとこう」っていうふうだったんですけど。本当にこのコロナを機会に…。

香川編集長
ゴリゴリのプロが入ってきたみたいな。

舟橋社長
ゴリゴリのプロ、大リーグの監督とコーチがいきなり来て「これからは甲子園の優勝を目指すぞ」みたいな感じだったんですけど。でも甲子園の優勝を目指すためには、教えなきゃいけない。だから、トヨタさんは人に合わせて、厳しい面もあれば、ほめる面もあれば、優しい面もあるっていう。その使い分け、教えるってこういうことなんだな、ということをすごく感じました。

涙が出ることもあったけれど

森工場長
弊社の若手のリーダーたちを紹介したいと思います。

香川編集長
有志連合ができてから、どういうふうに変わったか?

中川由有
トヨタさんに入っていただいたことで、大量にものをつくれるという「ものの仕組み」というのを、社会人として僕は勉強できているなっていうふうに(思います)。

ささいな部分を拾い集めていくと、大きなものにつながっていくんだなという。

大西涼香
機械のメンテナンスっていうんですか、自分たちだとすぐにメーカーを呼んでしまうってのを自分たちで直してしまう、壊れないようにするっていうのはすごく勉強になりました。

森工場長
立松くんは今年4月に入ったばかりの新入社員です。

香川編集長
大変な時期にね。

立松宏隆
不良が出てしまって4000枚を全品検品することになって、涙が出てしまうときもあったんですけど。

※立松氏は「最終品質検査」を担当。溶着工程の不良を見逃してしまったことで仲間が全品検品をすることになり、「仲間に迷惑をかけてしまった」と責任を感じて涙を流した

香川編集長
泣くんだよね?

立松
はい。

香川編集長
でもやっぱり、泣いといたほうがいいよ、若いうちは。

立松
そうですね。

香川編集長
うん。それは何かになるから。

立松
はい。

香川編集長
目からウロコ、みたいなことはありましたか?

川野崇幸
改善ですとか。「これ以上あるのっ?」ていう。僕はある程度、70%、80%まで行ったと思ったら「いや、ここがスタートライン」といってどんどん、まだまだ上を目指していくっていうところとか。あとは、スピードがすごく早い、すぐにやって、翌日の朝には展開されているという状態をつくるところは非常に勉強になっておりまして。

はじまりは、1枚のプレスリリース

大谷真奈美
トヨタさんが来るきっかけになった新聞のプレスリリースを私は書きました。こんなに大きくなるとは本当に思っていなくて。本当にあの時期は困っていて。

香川編集長
でも、新聞の記事も相当大きくあのときに使われてるから、たぶん、すごく切実なものがあったんだろうなっていうのは僕は感じたんですけれども。

大谷
プレスリリースのときにも、ごみ袋に穴を開けて使ってる人がいて、何とかうちの技術で助けられそうなので、どうにか仲間になっていただきたい、ということを書きました。

香川編集長
広報としてはどうですか、今の状態は?

大谷
いつもはどうにか取り上げていただきたくて、新しい商品ができたり、新しいことがあるたびにプレスリリースを書いてきたんですが、今回は自分でプレスリリースを書かなくてもどんどん広がっていって、「取材したい」というお電話をいただいて、広報としてはこんなにありがたいことはないなって思ってます。

香川編集長
1枚の新聞の紙面から始まったとすると、とても大きな仕事をされたと思います。

舟橋社長
本当に彼らはまだ新人から3年目くらいの人間ばかりなんですけど、自分のこととして当事者意識を持って、この取り組みに真正面からぶち当たっているっていうのが、日に日に成長していく彼らや、日に日に伸びていく数字を見ていくと、本当に社長としてうれしいです。

カッパ屋でもできるじゃん

舟橋社長
今、息子が東京の理系(の大学)に進んでいるんですけど「カッパ屋なんて、あってもなくても一緒じゃん」と。「自分は世の中のために何かしたい」ということで、今、エネルギーの勉強してるんですけど。

香川編集長
4代目ですよね?

舟橋社長
4代目です。それが防護ガウンをつくることになった。トヨタイムズで記事になった。そしたら、自分のやりたかったこと、「世のため、人のため」って、カッパ屋でも十分できてるじゃん、と。

香川編集長
そうですね。

舟橋社長
トヨタイムズの記事をもらったときに、船橋のこれまでのノウハウやアイデアと、トヨタ自動車さんのカイゼンというのが1つになって、とても熱い現場になっているのが分かって、とてもワクワクしたと言ってもらえて。先月、「自分が4代目として跡を継いで残していきたい」って言ってもらえました。

香川編集長
素晴らしいじゃないですか。

舟橋社長
すごくうれしかった。本当にうれしかったです。

香川編集長
家をつないだわけですよ、トヨタさんが1つのこの大きな家を。おじいちゃんも泣いて喜んでますよね。

舟橋社長
泣いて喜んでると思います。

香川編集長
ね。

舟橋社長
今うちの母親がいるんですけど、泣いて喜んでました。

香川編集長
絶対、そうですよ、すごい。これも「人づくり」じゃないですか、家系づくりだし。エネルギーの勉強されてるんだったら、トヨタさんがやられているSDGsのこともそうだから、全部エネルギーの流れとして、カッパ屋さんを今後どうしていくかってことも、絶対に環境問題も含まれてるわけだし。ポリエチレン、こういうものも結局は破棄していくときにどうゴミを捨てるか。そういうことも含めて、息子さんがより新しい21世紀のカッパ屋をつくるんじゃないですか、それは。

舟橋社長
息子がやってくれると本当にうれしいです。

香川編集長
でも、それは一回外に出たからこそ分かることもあるだろうし。

舟橋社長
そうですね。

香川編集長
とてもいい話だね、これ。素晴らしいですね。いいことをなさっていますね。

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