トヨタイムズ

生産量を「100倍」にしたトヨタ生産方式の秘密 医療用防護ガウン工場に潜入(後編)

香川編集長 2020.08.09 UPDATE

INDEX

医療用防護ガウンの現場で、トヨタ生産方式のすごさを身をもって体験した香川編集長。続いて、有志連合の1社で三重県に工場を構えるスポーツウェアメーカー、トーヨーニットの生産現場を見学した。案内してくれたのはスイム事業統括部統括部長の長谷川伸也氏と、同じくスイム事業統括部営業・新規開発課生産管理課課長の矢田弘子氏。

成功した技術はすぐに「横展」

トーヨーニットが防護ガウンについて知ったのも、船橋株式会社の新聞記事を読んだのがきっかけだ。うちなら裁断機も溶着機もあり、出荷・梱包までできる。そう考え、その朝すぐにメールで連絡を取ったという。

工場に入った香川編集長の前にあったのは、船橋株式会社で見たのと同じ、延反台だ。船橋でトライしてうまくいった方法を、他の工場にも横展(横展開)する。これもトヨタで行われているやり方だ。

香川
ハサミがやっぱこう置いてありますね。置くとこ決めてありますね。

古井
実際に船橋さんで第1号トライして、いけるってことが分かったので横展をしていくというのが、トヨタのやり方ですね。

香川
なるほど。

従業員の提案で大幅に時間短縮

畳みの工程では従業員の提案で工程をカイゼンしたという。トーヨーニットでは普段水着の製造を手がけているため、はじめは防護ガウンも水着と同様1人で畳んでいた。

ところが防護ガウンは水着と比べてサイズがかなり大きく、遠くまで手を伸ばして畳まなくてはならない。苦しい姿勢を強いられるため、これでは腰が痛くなる、ということで従業員が2名で畳むことを提案。その方が効率がいいことが分かり、すぐ採用されることになった。ここでも船橋と同様、空気を抜くために紙の芯を使っている。

鈴木
我々は、ただペラペラやってたから2分も3分もかかっていました。今は、21秒くらいですね。

香川
21秒!ここでも紙の芯がいきているわけですね。

鈴木
命の棒なので。

香川
(笑)

ここまで現場に近いとは思わなかった

有志連合7社の方々に、防護ガウンの生産とトヨタ生産方式について話を聞いた。集まっていただいたのは以下の皆さんだ。
・船橋 代表取締役 舟橋昭彦氏(雨ガッパ製造)
・トーヨーニット スイム事業統括部 統括部長 長谷川伸也氏(スポーツウェア製造)
・垂光 専務 大堀八馬氏(婦人服の縫製)
・宝和化学 代表取締役 落合徹哉氏(自動車シートカバーの縫製)
・碧海技研 代表取締役社長 中村昭次氏(自動車シートの縫製)
・フタバ産商 代表取締役 杉浦信樹氏(輸送用/イベント用シート製造)
・岡川縫製 代表取締役 岡川恵朗氏(婦人服の製造)

「ここまで(トヨタのチームが)現場に近いとは思わなかった」と振り返るのはフタバ産商の杉浦氏。トヨタのメンバーは現場に入り込み、自分たちが率先して手を動かして作業をしていく。宝和化学の落合氏も、人の会社だからと遠慮して一歩下がるのではなく、「自分ごと」として取り組むトヨタチームの姿が印象に残っているという。

岡川縫製の岡川氏は、トヨタの高橋氏の生産スタッフへの接し方に感銘を受けた。成果が出たときは積極的にほめ、達成感を感じてもらう。そういった態度が現場のモチベーションを上げ、さらなる生産数向上につながる。

岡川
高橋さんも、よくうちで一番たくさん数を打つ子に対してほめてくださって。上手いこと言いはるなということですね。悪い言葉で言えば、人たらし。そんな感じですね。

香川
やっぱり名古屋は秀吉の国ですからね。

岡川
もうそこが、逆に僕らができない部分を見せてくださったので。そういう部分が一番、現場のモチベーションを上げているんじゃないかな、というのも勉強させてもらいました。

香川
なるほどね。

保全は恵まれない?

今回、防護ガウンの生産量を短期間で劇的に向上させられた背景には、工場の機械を維持管理する「保全」の力も見逃せない。素材を重ねて広げるために特製装置を作ったり、40年以上も不動だった高周波ウェルダーを分解・修理したりと、現場を支えるいわば縁の下の力持ちのような存在だ。

生産工程を常に理想的な状態に保つために欠かせない保全だが、古井氏は「保全は、はっきり言って恵まれない」という。もし機械が壊れれば「何をやってるんだ」と叱られ、順調なら順調で「保全は何もしていない」と言われてしまう。トヨタ生産方式というと現場ばかりが注目されがちだが、現場と保全は車の両輪のようにどちらも重要なのだ。

古井
こないだの土曜日も高周波(ウェルダーを)直しましたけど、直ったときの喜び。現場の人が「おう、ありがとな」と言ってくれる。たったそれだけで、みんなモチベーションあげていけるんです。

香川
たぶん古井さん、全部直しちゃうと思うんですよね。その度量の大きさが、トヨタの大きさなんだと痛感しました。保全ってそういうことなんだ、と。

やっぱり現場は楽しいですよ

CASEをはじめとする先進技術とは対極にあるようなトヨタの「現場力」。だがその現場の力こそが、トヨタのモノづくりの土台を支えているのだ、と香川編集長は実感した。

鈴木
やっぱり現場は楽しいですよ。我々も、普段はオフィスがあってパソコンがあります。でも座っとれんですよ。体がうずうずして。時間さえあれば現場行くと。

そこにはやっぱり人がいる。ちゃんと人を育てないかん。やっぱり人を作らなあかんですよ。工程だけ作ったって生産性はあがりません。人をちゃんと作りながら工程を作って、どんどん成果が出る。それがやっぱり楽しいですね。

もう一度、トヨタの原点を見た

最初は1日500着しか作れなかった医療用防護ガウン。それが舟橋社長の志のもとに集った有志連合の力とトヨタ流のカイゼンによって、短期間で1日5万着まで増やすことができた。

取材をして、特に香川編集長の印象に残っているのは、ハサミの置き場所を決めたことだった。生産量を100倍に引き上げるための第一歩が、ハサミをいつも同じ場所に置くこと。大きな変革を起こそうとするのではなく、どんな小さなことでもいいからカイゼンすること。その積み重ねが大きな成果を生むことを、トヨタの現場のオヤジたちは知っているのだ。そして、それこそがトヨタ生産方式なのだ、ということを香川編集長は改めて実感した。

香川
最近ずっと自動運転やAIや最新鋭の技術の方を主に見てきましたけど、今回トヨタ生産方式という伝統的に持っているトヨタの強み。これをもう一度見直すことによって、この会社の底辺の大きさを目の当たりにしましたね。これが日本のモノづくりの底力であると。

今日ここにこれてよかったと思います。もう一度トヨタの原点を見たというか。

トヨタ生産方式って人も作ってんだ。

これね、映画化したほうが良いよ。舟橋さん誰にするかなぁ。

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