トヨタイムズ

"あえての今期見通し”に込めた豊田章男の気概 香川編集長決算発表リモート取材

"あえての今期見通し”に込めた豊田章男の気概 香川編集長決算発表リモート取材

香川編集長 2020.05.23 UPDATE

INDEX

あえて見通しを出した理由を直撃

香川
えー、ではですね。社長とつながっておりますので、早速社長をお呼びしたいと思います。どうもお疲れさまでございました!

豊田社長
初めてのこういうネット会見でした。

香川
僕、2010年の発表の原稿からずっと去年まで読まさせていただいて、今年、生で初めて聞かせていただいたんですけど。で、リーマンショックの直後という、ほんとに不況のときからバトンを渡されて11年。

豊田
「11年かあ…」っていう感じですね。

香川
短く感じられます、それは?

豊田
いやあ、11年と思うと短いですよね。

香川
なるほど。

豊田
じゃあ、もう1回やりたいかって言うと、嫌です。

香川
いや、ちょっと驚いたのがですね、今期というか、21年の3月期までの見通しを出したじゃないですか。出しましたよね?

豊田
はい、そうです。

香川
多くの企業が見送る中、なぜトヨタが今期の見通しを出したのか。

豊田
リーマンショックのときは、世界での販売台数が約15%下がって大赤字になりました。今回は、そのときよりも多い20%減を一応計画してます。

香川
なるほど。

豊田
なぜそういうことをしたかと言いますと、自動車は非常に裾野の広い産業で、仕入れ先さんとかいろんな方が一緒に動いていかないと無理なんですよ。そうなりますと、一番出発点であるわれわれ自動車会社が、ある程度の計画を立てない限り、すべてが動かないと思いました。計画を立てると、1次サプライヤー、2次サプライヤー、3次サプライヤーも何かしらの計画を立てられるんです。

あとは、そういう計画には、ひとつの前提条件というのがありますから、その前提条件が現実化した時点で、その計画とのギャップがはっきりしてきますよね。そこでわれわれ「異常管理」という言い方をしてますけど、異常を見つけ直していくということですね。正常な状態はこういう状態ですよ、というのをはっきりさせてあげないと異常管理はできないんです。

11年間なにもしてこなかったら赤字

豊田
「損益分岐台数」っていうのがあるんです。リーマンのときの、いわば損益分岐台数で、この11年間なにもしなかったとしたら、赤字決算になると思います。

香川
なるほどね。

豊田
それが黒字になったということは、この11年間一生懸命ですね、損益分岐台数を下げようと、ほんとに地道に努力を重ねてきてくれた結果なんです。

香川
でもね社長、普通は、黒字だけを優先するならば、例えば国内生産を減らしたり、いろんなことを下げることによって数字を守るということなら分かるんですけれども、国内生産は必ず守ると。国内生産300万台、ね。

豊田
それは300万台の台数にこだわっているわけじゃなくて。

香川
台数じゃない。なるほど。

豊田
300万台をつくりあげるための生産基盤を維持するためには、仕事の場があるということ。

香川
はい。

豊田
それぞれで働いてく人たちがそこで技能を学び、技能を習得し、自分自身が成長できるという場を与えられる、ということなんです。

今回「マスク化現象」と言われてるように、「マスクはより安くつくろうよ」ということばかりが最優先項目となり、日本で調達できないことになってました。でも、リアルなモノづくりの企業がいっぱいあったということで、すぐに設備と人を教育してマスクをつくり、マスク自給自足に取り組めたわけですよね。

何か必要とされたときに、それをつくる能力があるという点、そしてある程度の規模がないと働く場を提供できません。働く場が提供できなければ、人が学び、技能を手にプロになるチャンスもないわけです。

香川
300万台国内生産を死守すると。守り続けるもの、変えてはいけないものもあるのがトヨタだと。で、この何を変えて何を変えないかの判断、線引きが、ものすごいやっぱ感覚的に行われてるんだなというのを、はっきり分かったんですね。

イチローさんに教わったこと

豊田
私ね、あんまり熟慮に熟慮を重ねないんですよ。ただし、絶えず悩んでるんです。

香川
なるほど。

豊田
というのは当初申し上げましたように、私は基本負けず嫌いですから、いろんな人から「どうせ、あなたできないでしょ」と言われたくないんですよ。それと「あなた、どうせ決められないでしょ」とかいうことも言われたくないがゆえに、どんなに必要条件がそろってなくても何か物事を決めてあげなきゃいけない、というところに自分を追い込んできました。

つい直前にですね、副社長という職を廃止しました。

香川
はい。

豊田
それで何が起こったかというと、より正直に、より相談事が自由にできる環境ができたっていうことですよね。じゃあ、そこまで環境変化があると思って副社長職を廃止したかというと、してません。

香川
そうじゃない、なるほどね。

豊田
何か変えたからっていって、確実にいい結果が出るわけでもないんです。これはイチローさんに教えてもらいました。

香川
なるほど、なるほど。

豊田
イチローさんってね、毎年毎年バッティングフォーム変えるんですよ。

香川
うかがってます。

豊田
変えたからといって結果が出るわけではない。ただし、変えなければ確実に自分のバッティング技能は衰退するんだ、といわれてました。

香川
はい。

豊田
それを私はこのマネージメントの世界で、何でもチャレンジをしてみようと。今だと、チャレンジをして結果はうまくいかなくても、自分で責任取れるんです。だから「チャレンジしよう」ってことが言えるし、ついてきてくれる人が増えてきた結果、今「ありがとう」と言う機会が増えたんじゃないでしょうか。

強い会社ではなく、応援される会社になりたい

香川
ほんとに数字の話から始まって、結局最後は「ありがとう」という心の話になっていくわけですよ。

豊田
要は、決算発表というのは、世界中の従業員とか、販売店、仕入先も含めてみんなががんばってきた1年の結果なんですよ。だから、結果を数字で見てるというだけのことで、その数字をつくったプロセスというのは、人がつくってるわけです。

それと景気というのは上がったり下がったりします。ただ上がったり下がったりしても、例え赤字であっても、やっぱりお世話になってるステークホルダー、シェアーホルダーも含めた方々には普段の感謝を示したい。

ステークホルダーというと株主も入りますけど、あとお客さま、従業員、地域社会も含まれるんですね。それで今日も、トヨタは強い会社にしようと思ってたわけじゃなくて、期待される会社になりたい、応援される会社ですね。

そうしたときに「誰から応援されたいの?」というと、そこで働く従業員、商品をご愛顧いただけるお客さま、働く場を提供いただいてる地域社会の方々から「ありがたいな、いいな」と思われていることが、最後はシェアーホルダー、株主の利益につながり企業の価値を生むんじゃないかな、と。これが、私が思ってる持続可能な世界ですし、SDGsの考え方と同じだし、これって「トヨタらしさ」を取り戻す戦いの中で、ずっと自分が言ってきたことじゃないか、と。

それがね、すべて言い表してるのが、トヨタ及びトヨタグループの創業の理念である「豊田綱領」なんですね。

香川
はい。

豊田
それで今日の会見でも一言だけ申し上げましたのは、それを一言で表現するとトヨタっていうのはどんな会社なのかなというのが、「幸せを量産する」だと。

やはりトヨタは1台の試作車をつくる会社ではなくて、やはりいろんな商品を量産すること。その商品によって幸せをお届けできること。そして皆さんが笑顔になること。

これがね、これからの時代でも変えてはいけない、今後のぶれない軸として持ってほしいビジョンなのかなというふうに思って、あの言葉を今日使わせてもらいました。

人間だけがオロオロしてる

香川
社長今日ね、ゴールデンウィーク中にいただいたお手紙の話をされたじゃないですか。「池の亀や魚はちゃんと普通にいるのに、人間だけがオロオロしてる」と。これね、ほんとに僕もずっと思ってたんですよ。あのね、昆虫は普通にやってます、今も。

彼らは文句のひとつも言わずに生命をつないでるんですよ。「昆虫が耐えているんだから、人間も耐えて当たり前だ!」ってずっと思ってたんですけど、これをまた社長が例に出していただけたので、これまた同感だなと。

豊田
さすが昆虫博士だ。

香川
社長、それには何よりも、ほら、まずは健康第一ですよ。

豊田
はい。結構健康です。

香川
結構健康。大丈夫ですか。

香川、豊田
健康第一!トヨタイムズ!

香川
ありがとうございました!

決算の裏に見えた“トヨタの気概”

香川

今回はですね、トヨタの決算発表というガチな取材だったわけですけれども。さっき、ちらっとネットニュースを見てみたら、「(今期の営業利益予想が)8割減」っていう見出しの決算報告(記事)がたくさんあった。でもね、ちゃんと中身を聞いたら、そういうことじゃないんだね。それは、聞いてみたら、もっと前向きで元気の出る内容なんですよ。

売り上げは、そりゃ減りますよ、多少は。しかし黒字だと。こういう状況でも黒字を確保したというすごさを、伝えなきゃいけない。

あとですね、今期の見通しを立てた。そしてですね、驚いたのが、トヨタが今期の見通しを出してきたのはどうしてかというと、さまざまな部品メーカーや関係会社が計画を立てるための道しるべ、そして基準を出すためだと。それを導くためだと。

こういうような、ほかの会社のために「まずトヨタが見通さずしてどうする!」という気概、おとこ気。これを感じましたね。このことによって、多くの会社が、救われるんだから。見通しを出す。出してもいい。出そうか。じゃあ、出してみよう、というふうに第一歩になるわけですよ。誰かが第一歩を踏まなきゃ、道はできないんだよ。

さらに黒字予想ですよね。リーマンよりもひどいことになっていると思ったのに、この黒字予想を出すことによって「日本を元気にしたい」「日本に元気を届けたい」という、そういう気持ち、気概がビシビシ伝わってきました。これはすごい。私も元気をもらいました。

健康第一、トヨタイムズ!

いやしかし、決算ってすごいね!数字だけじゃないんだね。

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