トヨタイムズ

"あえての今期見通し”に込めた豊田章男の気概 香川編集長決算発表リモート取材

香川編集長 2020.05.23 UPDATE

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2020年5月12日(火)、トヨタの決算が発表された。新型コロナウイルスの影響で、今年はWeb配信となった決算説明会。香川編集長も、その様子をパソコンの前でじっと見守った。

最初に発表されたのは2019年度の実績。最終四半期(2020年1−3月)にコロナの影響を受けながらも前年度と同水準を確保している。そして、その後に“2020年度の決算見通し”が発表された。

2020年度はコロナの影響が大きくなってきた4月から始まった年度である。そんな“先の見通せない1年”であるにもかかわらず出てきた予測値。そして、その数値は2019年度から大きく減少させているものの、営業利益はマイナス(赤字)とはしていない。

先行きが見えない中で、あえて収益見通しを出した理由を「いろんな方の生活を取り戻すための一助」と説明した豊田社長。

覚悟を持って出した2020年度見通しには、どんな想いがあったのか? 決算発表直後のリモート取材で香川編集長は豊田社長を直撃した。

香川

オン!はい、ついた。次、3つ目のカメラ。4台目。4台あったっけ。はい、ついた。もうすっかり、この労力も慣れてまいりました。

トヨタイムズ編集長、香川照之です。はい、完全にひとりです。そして、窓も全開!今回で3度目のテレ取材になりますが、今日はですね、トヨタの決算発表、これをリモート取材していきたいと思います。

さみしいなあ。いつものように。決算発表をひとりで聞くっていう。あ、始まりました。

何より驚いたのが今期の見通しを出したこと

近健太(トヨタ自動車 執行役員 Chief Financial Officer)
それでは、2020年3月期の決算につきましてご説明いたします。当期の連結販売台数は、895万8000台となりました。売上高29兆9299億円。

香川

あまり減っていないな。


営業利益2兆4428億円。株主還元についてご説明いたします。当期の普通株式の期末配当金は1株あたり120円とさせていただきました。続きまして、2021年3月期の見通しについてご説明いたします。

香川

え、今期の見通し発表できるの?発表するの、今。見通しって言ったよな、これ。


新型コロナウイルスの感染拡大により先々を見通すことは非常に難しく、全体としては販売が4月を底に徐々に回復して、年末から来年にかけて前年並みに戻ることを前提としております。

次に連結決算の見通しです。営業利益5000億円を見込んでおります。

香川

黒字だね、これ。これ黒字だよね。

黒字なんだ、今期見通し。すげーな、リーマンのとき赤字でしょ、だって。
見通し出しましたよ!(トヨタ以外は)どの会社も見通し出してないよ。


私どもは自動車産業のOEMということもありまして、何らかの拠りどころと、基準を示すことも必要じゃないかということで今回公表させていただきました。

香川

はい、今第1部の決算発表が終わりました。まず2020年の3月期の決算が、これコロナの影響は受けていたんですけども、ほぼ前年並みと。

そして何より驚いたのが、2021年の3月、つまり今期の見通し、今後1年どうなるかという今期の見通しを出したことだ。これよく出したね。もう一つ驚いたのが、これね、見通しが黒字だったことですよ!やっぱりこれ、元気出ますよね。コロナでも黒字なんだと。普通はまあ、赤字ですよね。

いずれにしても、大事なのは数字ではなくて、これは本質的なこと。トヨタがそういう数字を通して、どういう方向に進んでいくのか。そして、今どういうことが起きているのか、このビジョンだと思うんですよ。

この後、第2部の社長の決算発表、ここをしっかりと、このあたりを聞きながら伺ってみたいと思います。

過去に時間を使うのは、私の代で最後にしたい

香川

あ、始まりました。

豊田章男(トヨタ自動車 社長)
豊田でございます。本日は決算内容を踏まえ、トヨタとしてコロナ危機にどのように立ち向かっていくのかについて、私の思いをお話しいたします。

香川

メガネが今日はフレームがないですね。

豊田
まず、リーマン・ショックの直前から現在に至るまでの収益構造の変化をご覧いただきたいと思います。


リーマン・ショック直前の3年間は営業利益を増やしていたものの、固定費は大幅に増加しており、事業の収益構造は決して良くはありませんでした。この時期に規模拡大のスピードが人材育成のスピードを上回り、後のリコール問題にもつながっていったのだと思います。

リーマン・ショック直後の1年間は、販売台数が前年比で約15%も減少し、4,610億円の赤字に転落いたしました。

私が社長に就任した直後の4年間はリーマン・ショック、大規模リコール問題、東日本大震災、タイの洪水、超円高をはじめとする6重苦など、数々の危機への対応に追われながらも、全社一丸となって乗り越えた時期であったと思います。

この4年間で販売台数をリーマン・ショック前のレベルまで挽回できました。同時に研究開発費、設備投資を急激に低減することで固定費を圧縮し、2013年3月期は1兆3,208億円の営業利益を確保いたしました。

しかし出血を止めるために、将来の投資も含め、すべてをやめたことで、本当の意味での体質強化にはまだしばらく時間が必要となりました。足元の7年間はもっといいクルマづくりを加速するための投資や、CASE対応に向けた投資によって、固定費は増加いたしました。しかし、原価改善などによりそれを吸収しながら体質を強化した期間でした。

香川

すげぇな。

豊田
最初の3年間で痛感したことがございます。それは平時における改革の難しさでした。昨年の決算発表の場で「トヨタの課題は何か」というご質問をいただき、私は「トヨタは大丈夫、という気持ちが社内にあることだ」とお答えいたしました。

そこに100年に一度の大変革が重なってきたものですから、この数年間はトヨタらしさを取り戻す戦いと、未来に向けたトヨタのフルモデルチェンジの両方に、がむしゃらに取り組むことなったわけでございます。

七人の侍体制、副社長の廃止など、役員・組織の体制を抜本的に見直してまいりました。

従業員とのコミュニケーションについても、本気で本音で向き合ってまいりました。

香川

なるほど。

豊田
こうした改革を行うたびに社内外から、「そこまでしなくても」という声が私の耳にも届きました。それでもやり続けてまいりましたのは、自分が思い描く理想の形で次世代にたすきを渡したい、この一念に尽きると思います。

「トヨタらしさを取り戻す」というのは、過去に時間を使うことだと思います。過去に時間を使うのは私の代で最後にしたい。次の世代には、未来に時間を使わせてあげたい。だからこそ、未来に向けた種まきだけはしておきたい。これが私の考える理想のたすき渡しです。

この数年間の取り組みをまとめますと、これまでの古いセオリーから脱却し、新しい時代の新しいトヨタのセオリーを構築していくということではないかと思います。

そして、2021年3月期の見通しです。今回のコロナ危機ではリーマン・ショック以上の販売台数195万台、前年比約20%の減少が見込まれるものの、営業利益は5,000億円の黒字確保を見込んでおります。何とかこの収益レベルを達成できたとすれば、これまで企業体質を強化してきた成果といえるのではないかと思っております。

香川

リーマンときは赤字。しかもリーマンのときは、4600超ですよ。4600億、5000億近くの赤字を出していたのに、今期の見通しでは5000億の黒字。これ1兆円違うわけだから。よく、この10年の間に企業体質を強くしたと、強化したというのが、この決算からも見て取れるんじゃないかと思います。

豊田
ここからはトヨタが長年にわたってずっとこだわり、ずっとやり続けてきたことをお話しさせていただきます。それは国内生産300万台体制の死守です。超円高をはじめ、これまでどんなに経営環境が厳しくなっても、日本にはものづくりが必要であり、グローバル生産をけん引するために、競争力を磨く現場が必要だという信念のもと、私たちが石にかじりついて守り続けてきたものは、300万台という台数ではありません。守り続けてきたものは、世の中が困ったときに必要なものをつくることができる、そんな技術と技能を習得した人材です。こうした人材が働き、育つことができる場所を、この日本という国で守り続けてきたと自負しております。この信念に一点の曇りも揺らぎもございません。

ただ、皆さまにご理解いただきたいことがございます。それは守り続けること、やり続けることは決して簡単なことではないということです。今の世の中、V字回復ということが持てはやされる傾向があるような気がしております。

雇用を犠牲にして、国内でのものづくりを犠牲にして、いろいろなことをやめることによって個社の業績を回復させる。それが批判されるのではなく、むしろ評価されることが往々にしてあるような気がしてなりません。

それは違う、と私は思います。企業規模の大小に関係なく、どんなに苦しいときでも、いや、苦しいときこそ歯を食いしばって、技術と技能を有した人材を守り抜いてきた企業が日本にはたくさんあると思います。そういう企業を応援できる社会が今こそ必要だと思います。ぜひ、ものづくりで日本を、日本経済を支えてきた企業を応援していただきますよう、お願い申し上げます。

香川

うん。

豊田
最後に、今、私が最も大切だと考えていることを申し上げます。これまで多くの危機を乗り越える中で、トヨタの企業体質が強くなってきたというお話をさせていただきました。

しかし、この11年間、私はトヨタを「強い企業にしたい」と思ったことは一度もございません。トヨタを「世界中の人々から頼りにされる企業」「必要とされる企業にしたい」という一心で経営のかじ取りをしてきたつもりでございます。大切なことは、何のために強くなるのか、どのようにして強くなるのか、ということだと思います。私は世の中の役に立つために、世界中の仲間と「ともに」強くならなければいけないと思っております。

少し話はそれますが、ゴールデンウィーク中にある方からお手紙をいただきました。池の周りを散歩していると、鳥や、カメや、魚が忙しそうに動き回っている様子を目にします。

香川

虫もだよ。

豊田
人間以外の生き物はこれまでどおりに暮らしている。

香川

そうだよ。

豊田
人間だけが右往左往している。

香川

うん、そのとおりだ。

豊田
人間が主人公だと思っている地球という劇場の見方を変える、いい機会かもしれません。

香川

これは素晴らしいですね。

豊田
私も全く同感です。

香川

昆虫が主人公なんだよ。

豊田
今回の危機で、地球環境も含め、企業も人間もどう生きるかを真剣に考え、行動を変えていく。人類がお互いに「ありがとう」と言い合える関係をつくっていく。私たちは今、大きなチャンスを与えられているのかもしれません。そして、それはラストチャンスかもしれません。トヨタは日本で生まれ、世界で育ったグローバルなものづくり企業です。私たちの使命は、世界中の人たちが幸せになるモノやサービスを提供すること。幸せを量産すること、だと思っております。

人類に乗り越えられない危機はありません。コロナ危機を共に乗り越えていくためには、私たちがお役に立てることは何でもする覚悟でございます。今度ともご支援をたまわりたく、よろしくお願い申し上げます。本日はご清聴ありがとうございました。

香川

うん、わかりやすい。

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