2019.12.09

自動運転の先にあるものとは?

香川編集長が、東京・日本橋にあるトヨタの自動運転の開発拠点TRI-ADで、開発現場を取材。最高経営責任者のジェームス・カフナー氏、最高技術責任者の鯉渕健氏の案内でオフィス内を巡ると、そこには高精細な3次元地図や巨大シミュレーター、VR(バーチャルリアリティ)システムなど、最先端のテクノロジーがぎっしり詰まっていた。

香川

どうもはじめまして。

カフナー

ようこそTRI-ADへ。

鯉渕

よろしくお願いします。

Wingletに乗る香川編集長
カフナー

早速ですが、私たちの職場を紹介させてください。次世代の技術者にとって革新的で、品質の高い職場だと思います。

このオフィスを、新しいモビリティ(Winglet)で案内しますよ。

香川

これ、さっきから気になっていたんですけどね。これすごいよ!竹馬の100倍ラクだもん。

カフナー

では、いくつかのチームを紹介します。

鯉渕

こちらがGeoアプリケーションという、地図を開発している部署でして、ちょっと実際に何をやっているのかというのを紹介します。

世界で33万kmもの地図を整備

地図の説明をしてくれたのは、自動運転開発 Geoアプリケーションの横川修一氏と、藤岡駿氏。

横川

地図を使う利点は2つあります。ひとつは、今まではカメラを見て淡々と自車線を走ることしかできなかったのが、地図があれば目的地までのルートが分かります。どこに合流や分岐があるかと言うことも正確に分かるので、目的地まで自動的に到着できること。もうひとつは、車線の形状なども整備しているので、先が見えないような急カーブの先や、前に大きなトラックがいて白線が見えないような状況でも安定してスムーズな走行ができます。

白線の一本一本、看板のひとつひとつまで整備していて、こういった情報を使ってスムーズな自動運転を目指しています。

香川

これ、上っているか下っているかも把握しているの?

横川

はい。3次元で作成しています。この走行ラインは、日本全国、全米、全世界を計算していまして、それが今33万km分あります。そのシミュレーターがこちらになります。

藤岡

今、日本のシミュレーションをしているのですが、3万kmを1時間弱で計算してしまいます。時速に直すと、大体1時間に地球1周分以上のスピードで高速に計算することになります。

香川

(こんなに高速の地図ばかり見ていたら)高速道路を走りたくなくならないですか?

藤岡

いろいろな形状の道路が出てきて、それぞれ課題が出てくるので、それをどうやってソフトで解決しようかと考えるのは楽しいですね。

横川

実際に(自分で)運転すると、ここはどういうパスを引くのが自動運転としていいんだろう、と考えてしまいますね。

香川

首都高だと、どこが一番難しいんですか?

横川

おそらく箱崎ジャンクションかと…。

香川

やっぱり箱崎ですよね。混むだけの理由があるわけですよね。

道を事前に知ることで安全に走る

続いてカフナー氏は、レーンキーピングという部署に編集長を案内。説明してくれたのは自動運転開発 レーンキーピングの北郷正輝氏。

カフナー

次のチームは、クルマをどのようにレーン内に走行させるかを発想するため、模型を用いたりもしています。

北郷

カメラの認識にプラスして地図を使うことによって、地図から事前に得られる情報を使って、安定した走行パスを、より先の方まで推定できます。地図の中心をただ走るだけでなく、うまい人の運転の仕方というのを考えて、より滑らかで安定した走行パスを生成するということを考えています。

認識の方の精度が少し落ちたときでも、地図でその情報を補完して、合わせて安定して制御するという仕組みになっています。

香川

なんか飛行機に似てきましたね。お互いを感知しながら「この高さでいけ」と。上空にいくとある程度自動運転になるじゃないですか。そういう感覚なんだね、きっと。

北郷

はい。

鯉渕

安全機能でいうと「道からはみ出ない」機能は、きっと地図を使うと将来的にはできるのではないかと思います。

香川

先を見通せとか、道を外れないとか、もうそのまま人生の教訓ですね。「レーンキープとは人生である」ということですね。

目的地まで、どの車線をどう走行するかを計画するのも、自動運転には不可欠な技術。自動運転開発 レーンプランニング松本健太朗氏がその開発方法を見せてくれた。

カフナー

こちらは、レーンプランニングチームです。

松本

目的地まで行く中で、必ずレーンチェンジをしないといけないんですけど、どこをどういう風にたどっていけば安全に目的地までいけるか、というのを考えているところです。

香川

もしかしたらクルマで一番求められることだという気がしました。

松本

そうですね。これは日本全国から地図の情報を持ってきて、その場所でシミュレーションができるような仕組みを作っています。

香川

この色は何ですか?

松本

地図のデータはいろいろ細切れになっていて、そのひとつひとつのつながりを示しています。

人間は、クルマの周りをしっかり見ているつもりでも、いろいろな情報を見る必要があり、どうしても情報が足りなくなってしまう部分があります。そのあたりを、こういったシステムでサポートしていければと思います。

巨大シミュレーターで公道を再現

続いて一行は、巨大なディスプレイが並ぶ部屋へ。案内してくれたのはテスティングを担当する加藤雅之氏。

カフナー

クルマの研究のために、技術力だけではなくユーザービリティのテストも行う必要があります。シミュレーターをご覧ください。

香川

これは何のために使うんですか?

加藤

公道で試験をするためには、訓練されたドライバーが安全に配慮して操作する必要があります。こういった装置でそういったシチュエーションを再現することで、開発者が自分でリアルな感覚を感じながら開発できるようになります。

香川

社員のための装置なんですね。

加藤

基本的にはそうです。

鯉渕

例えば「ここが分かりにくいよ」という点があったら、そこを改良してまた試してみるということが、こういうもの(シミュレーター)があればできます。

香川

これだけ左右のパノラマがありますけど、これもカメラで撮っている…。

加藤

自動運転では合流とかレーンチェンジといった周辺の状況が重要になるシーンもありますので、広角なスクリーンを用意しています。

香川

これは全部で何度くらいあるんですか?

加藤

これは約300度あります。

香川

300度!すごいですねー。

ユーザーエキスペリエンスデザインの西村直樹氏と、ドライバー&パッセンジャーモニタリング 澤井俊一郎氏は香川編集長をシミュレーターの中に案内し、実際に体験させてくれた。

西村

我々の開発は、「人とクルマはパートナーである」ということで、常にクルマの中で対話をしながら運転することを目指しています。例えば、今クルマが何を考えていて、どういう行動をするか、を教えてくれたり。「このあと自動運転ができない場所に入ります」と運転交代が必要になったときに、ドライバーが変な姿勢になっていると「姿勢を直してください」と声をかけたり、あとで体験していただきます。

香川

また人生の教訓が出てきましたね。「姿勢を正す」ですか。

<香川編集長、シミュレーターを体験中>

香川

これはどうするの?

西村

放っておけば大丈夫です。自動で合流しますので。手も離していただいて大丈夫です。

香川

おー。

澤井

シートにもたれた状態で寝たふりをしてください。

香川

こういうことだよね。

<周囲の安全を確認してください>

香川

おお、起こすねー。

澤井

次はもう少し長めに。

<周囲の安全を確認してください><警告音>

香川

おお、もはやアラームのように。

澤井

東富士では「クルマの中に誰かいる」とおっしゃっていましたけど、こうやって見守ってくれるクルマというのを開発しています。

香川

これ、クルマの中に担任の先生がいますね。より具体的になりましたね。すごいねー。

2030年のクルマの内部を体験

ユーザーエキスペリエンスのソアー・ルイス氏とシャンポー・ユー氏は、VRによるインターフェース開発を体験させてくれた。

カフナー

ユーザーエクスペリエンスチームです。

ルイス

ここでは、未来の自動運転車のために最先端のユーザーインターフェースを開発しています。

香川

VR?

ルイス

ええ、VRです。デザイン中のUIを実際の車内に反映してみることができるツールの開発を行っています。試してみますか?

香川

もちろん。

<VR装置を装着>

香川

すげー!

ルイス

東京モーターショーで展示されているLEXUSのコンセプト車の内部の様子です。

香川

これいつ出るクルマなの?

ユー

2030年のクルマのコンセプトイメージです。

香川

なるほど。

コンセプトカー「LF-30 Electrified」

自動運転の先にあるものは「都市」

香川

自動運転の未来を話してきましたが、自動運転の先にあるものとは何でしょう。

カフナー

コンピューター技術の発達で情報のあり方が変化しましたが、モバイル技術の発達はコミュニケーションのあり方を変えました。そして、自動運転の発展はモビリティのあり方を変えると思います。

これらすべてが共になると、「人」と「場所」がつながります。それらの人々が住み、働き、繁栄する場としての概念をコネクテッドシティと呼んでいます。

香川

新たなテクノロジーがなくても、既存のテクノロジーだけでも、コネクテッドシティというのは生まれ、発達し、成長していくものなのでしょうか。それとも、今まだ誰も開発していないテクノロジーがそこに投下されて、はじめて生まれるものなのでしょうか。

カフナー

現在の都市は従来のクルマに合わせたデザインですが、未来で自動運転のクルマが走り始めると都市の形は変わっていくでしょう。適切な環境作りや投資ができれば、この先20年間で生まれる多くの新しい技術は考え方やデザイン、人々の暮らしを変えると思います。そこがとても面白いと感じています。

香川

20年頑張って生きられるかね、俺(笑)。