2019.12.02

自動運転の究極の姿は「愛馬」かもしれない

運転する楽しさも残す、誰もが好きな場所に移動できる自由も実現する、そんな自動運転にかける思いをカフナー氏の言葉を聞いた香川編集長。具体的に、いつどんな形で実際の製品登場するのか。トヨタの自動運転の今後について、TRI-AD最高技術責任者の鯉渕健氏に聞いた。

3つの研究施設の共通点と役割分担

香川

今日はありがとうございました。

鯉渕

ありがとうございました。

香川

シリコンバレーと東富士と、自動運転をずっと見てきて、今回3回目に当たるんですけども、まず(3つの施設での研究に)共通点はあるのか、そしてあるなら、それはどう協力し合う立場にあるのか。

鯉渕

まず共通点は、「自動運転で何を目指していくのか」というところは、1つのチームとして共有されていると思います。

1つ目は「安全」。そして2つ目は「すべての人に移動の自由を提供したい」ということ。その2つに関してはブレていないし、どっちを優先するかと言ったら「まずは安全だよね」というところは、共通です。

じゃあどう違うのかなんですけれども、3つの組織の違いはといいますと、TRIは技術のPossibility=可能性を見つけるところだと。TRI-ADは、そのFeasibility(実現可能性)を確認する、つまり本当に使える技術なのかということを確認する。そしてトヨタは最後に、それをお客様に手頃な価格で信頼性のあるものをお届けするという役目なんだろうと。

香川

なるほど。

鯉渕

簡単にいうと、TRIが研究をやって、トヨタは製品開発、で、我々はその橋渡しをする。そういうような関係にあると考えています。

香川

先ほど最初に言われた、安心、安全。それはTRI(シリコンバレー)であろうが、TRI-AD(日本橋)であろうが、東富士であろうが、同じスローガンだと。これは僕も納得するところで、何より社長の悲願である「事故ゼロ」というものを実現するために、自動運転というのは本当にキーポイントになると思うんです。

鯉渕

はい。

2つの自動運転の9割は同じ技術を使う

香川

僕は自動運転というのものが、この先どうなっていくのかっていうのを本当に知りたい。その先に安心、安全が本当にあるのかということも見てみたいなと思うんですが、その点についてはどうお考えですか。

鯉渕

おそらくTRIにいかれてガーディアンとショーファーっていう言葉を聞かれたと思います。ガーディアンというのは、ドライバーが運転するのを守ってくれる安全機能。ショーファーというのは、ドライバーを安全に目的地まで送り届けてくれる機能。その両方の技術の9割は同じだろうと考えています。カメラで見て、認識する、そして今どこを走れば安全なのかを考える。そしてそれを実際に実行する。

そういう点でいうと、ガーディアンもショーファーもおそらく技術は相当重なっているんだろうと。ガーディアンというのは実は難しいこともありまして、ドライバーが運転しているのにシステムが後ろで働くということは、場合によっては、運転しているのにハンドルが動かされちゃうとか、勝手にブレーキがかかっちゃうということになりかねません。ドライバーにいかに不自然さ、嫌な感じを抱かせずに、自然に後ろからサポートするのかっていうのは、実はすごく難しい技術です。なので、コアな共通部分の90%をしっかり開発しながら、それが徐々に、出ていくというような形だと思います。

香川

うん。

鯉渕

例えば、どうやったら道から外れないということができるのかと考えたときに、カメラで見て、走っていいところを認識して、はみ出ないようにするっていうのも1つあります。また今日見ていただいたように地図を使って、ここはクルマが走っていいところ、ここは歩行者が歩くところ、というのをあらかじめ知った上で、さらに高機能なものを作るという可能性もあると思います。

なので、自動運転というのは、そういう形で「安全機能」、それから「すべての人に移動の自由を」と、両方に貢献していけると思います。

香川

今年特に、トヨタは自動車会社じゃないんだと。もうモビリティカンパニーになると。

鯉渕

はい。

香川

このトヨタがモビリティカンパニーになるという観点を、より分かりやすく将来の展望も含めて説明していただけますか。

鯉渕

はい。やはり、人が好きなときに好きなところに移動するというのは、人生の質、クオリティオブライフを高める上で、ものすごく本質的で重要なことだと思います。

これからはサービスというものをご提供して、皆様の生活を豊かにしてくという方向にしないといけません。サービスよりの自動運転だったり、もしくはサービスよりのプラットフォームがきちんと整ったクルマをご提供して、いろんな事業者さんに使っていただいて、そのサービスが世の中に、広がっていく。そういう形態も両方考えていかないと、お客様の生活も、ある程度以上豊かにならない、ということなのかなと思います。

「愛車」から「愛馬」へ

香川

長き歴史のあるトヨタが当初から掲げている「愛車」という概念も、変わっていくと考えてよろしいんですかね。

鯉渕

はい。例えば我々にとっての愛車は、もしかするとハイパワーでレスポンスが良くて、サーキット走るようなクルマが好きな人も当然います。もしくは、やっぱり運転に自信がなくなってきた人というのは、自動運転みたいな技術で、後ろから見守ってもらって、それによって自信を持って安心して運転ができる。そういう愛車もあるだろうと。

香川

はい。

鯉渕

社長と一度話をしたときに、クルマというのは愛馬のようになるべきで、例えば、崖を人が乗ったまま飛び降りようとしても、馬は飛び降りないと。

香川

安全な範囲内では、きっとすごく素直に言うことを聞くんだけど、最後の最後は人を守る。自らも守るという。たぶん、そういうのが究極の姿なのかなと。

香川

そう考えると自動運転というのは、馬に戻る感覚と似てるかもしれないですね。

鯉渕

かもしれません。

香川

ね。それが自動運転の答えに不思議となるかもしれないですね。やっぱりどれだけ命令しても、やっぱり馬は行かないですもんね。

鯉渕

そうですね。

香川

一番究極の。

鯉渕

ええ。

香川

でも、それ以外はどれだけ嫌でも、こっち向けといったら、本当にこう向いて行ってくれるし。

鯉渕

ある安全の中では自分の操作した通りに、上手いも下手もそのまま表してくれて、「ここから先は行っちゃダメだよ」というところは守ってくれるというのが、スポーツカーとかだったら、きっとそれが一番楽しい形態なのかもしれないですね。

香川

なるほどね。今、楽しいって言葉が出ましたけど、この自動運転とFun To Driveというのは、つながる概念だと思ってよいのでしょうか。それとも相反するものなのでしょうか。

鯉渕

私はつながる概念だと思っています。ひとつは、先ほどいったように、自らが運転しながら、後ろで見守ってくれる。つまり安心していろんなところを走り回れる。ということは、多くの人にFun To Driveを提供できる技術だと思います。

一方、完全にドライバーが運転しないで自動で走る場合でも、この前東富士でお乗りいただいたように、加減速とコーナリングみたいなものが、言葉で言い表せないような形で上手く組み合わさって、滑らかで、ちょっと人でもこんな運転する人いないよね、というような動きをすると。そういうクルマに乗っていると、おそらく、「あ、なんかこの瞬間すごく心地いいな」というのが感じられるのかな。

香川

あー、わかります、わかります。

鯉渕

なので、自分で運転するときも、もちろんFun To Driveを感じられるし、おそらく乗ってる場合にもFunというのがあるんだと思います。

最初のステップは1年以内に登場

香川

そうですね。そういうわけで自動運転というのは、いつ完成されるんでしょうか。

鯉渕

完成という意味でいうと、おそらくまだまだ時間がかかると思います。人間のドライビングというのは非常に奥の深いことをやっていて、それに並ぶとか凌駕するとなると、まだまだ時間がかかると思います。ただ、一部の技術だったり片鱗といったようなものは、来年、1年以内に、世の中にそういった技術が入ったクルマが出はじめる予定です。

香川

とりあえずは来年、産声をあげるということですね。

鯉渕

はい、そうです。

香川

今言われた東富士のクルマは、すごくこう肉感的な感じがしたんですよね、動きが。

鯉渕

そうですね。

香川

で、今日はやっぱり、とても品行方正で、反応をしようと一生懸命になっている小動物のような感じがして。

鯉渕

はい。

香川

でも、自動運転の行く先はそれなのかもしれないなと思うわけですよ。全部が全部自動ではないはずだし。これからトヨタイムズの側としては、どういった配分で自動運転を、どこらへんに落とし所を見つけていくのかを、技術はもちろんですけど、それも含めて興味深く見守って行きたいと思います。

鯉渕

はい。