2019.11.19

全社員が共有していた自動運転への想い(後編)

首都高の運転はベテランドライバーでも気を使う箇所が多い。そんな難易度の高い道“首都高”で、トヨタの開発車両は一般のクルマに交じってスムーズに走り抜けて見せた。なぜそんなことができるのだろうか。香川編集長はその秘密に迫るべく、東京・日本橋のTRI-ADで開発現場を取材した。

自動運転時代の“トヨタ生産方式”をつくる

「ドライブする楽しみもあるし、逆にこういうことが必要だったんだな、と機会に気づかされる部分もあるような気がする」首都高での試乗後、香川編集長はこんな感想を語った。

「我々、自動運転の開発は、やっぱり安全のためにやっていますので」と自動運転開発ダイレクターの川崎智哉氏はいう。やはりここでもキーワードは「安全」だ。「事故ゼロ、安全というのは実現できると思いますか」とたたみかける編集長に、川崎氏は力強く「はい、そうなっていきたいと思います」と答えた。

自動運転に求められる信頼性について、TRI-AD最高経営責任者のジェームス・カフナー氏はこう語る。

カフナー

自動運転の開発は、私たちの世代の月面着陸のようなものです。信用できる自動運転技術を開発するには、すばらしいハードウェアとソフトウェアの両方が不可欠なんです。トヨタは最も信頼できて効率的なハードウェアの生産システムを開発しました。“トヨタ生産方式”です。TRI-ADでは、ソフトウェアにおけるトヨタ生産方式を開発しようとしています。

それを実現するためのオフィスを作りました。ここには良い環境、良いトレーニング、良い人材がそろっています。

いざ、開発現場の見学へ

そしてカフナー氏は、入り口に並んだ不思議なモビリティでオフィスを案内してくれた。

「これすごいよ!竹馬の100倍ラクだもん!」とはしゃぐ編集長。

最初に訪れたのは、Geoアプリケーションという地図を開発しているチーム。自動運転開発 Geoアプリケーションの横川修一氏が、実際の地図データを見せてくれた。その地図データには、道路上の白線や看板まですべて正確に収録。さらに道路の起伏まで3次元で再現されている。このような地図データが、日本全国、と全米で、約33万キロ分も作られているそうだ。

続いて訪れたのはレーンキーピングチーム。自動運転開発 レーンキーピングの北郷正輝氏は「カメラの認識にプラスして地図を使うことで、先を見通してより滑らかな走行を実現している」と解説してくれた。香川編集長が乗った開発車両が、道幅が狭く曲がりくねった首都高を滑らかに走り抜けることができたのは、カメラと地図を組み合わせていたからだったのだ。

鯉渕

安全機能のうち「道からはみ出ない」という部分については、きっと地図を使えば将来的にはできます。

香川

先を見通せとか、道を外れないとか、もう人生の教訓そのままですね。レーンキープとは人生である、という…。

レーンプランニングチームは、目的地にいくまでに必ず必要になるのが車線変更について研究している部署だ。「どこをどういうふうに走れば安全に到着できるのかを考えているところです」と自動運転開発 レーンプランニング の松本健太朗氏が説明してくれた。

鯉渕

やっぱり人間というのはものすごく賢くて、いろいろな情報を取り入れながら運転しています。なので人間とまったく同じ事をやるのは本当に大変なんですけど、一方で機械は同じ事を安定して疲れずにやり続けるといういいところがある。そういう機械のいいところ、まだまだなところを両方見ながら、いいものにしていきたいと思います。

香川編集長は、カフナー氏の案内でシミュレーターのある部屋へ。「開発者がよりリアルな感覚を体験しながら開発するための装置です」とテスティングの加藤雅之氏。

カフナー

クルマの技術を開発するだけでは十分ではなく、使いやすさもテストしなければなりません。公道では危険なことも、シミュレーションでは試験できます。交通事故を無くすという夢を達成するためには、テストを何度も重ねなければなりません。

必ずや事故をゼロにすると社長もいっていますが、それは実現すると思いますか?という編集長の質問に、ユーザーエキスペリエンスのソアー・ルイス氏は「もちろん、彼が言うなら実現しますよ。」と力強く答えた。

自動運転によって選択肢を提供したい

カフナー氏は、これからは選択肢を作ることが重要だという。

カフナー

私たちの夢は、交通事故をゼロにすることです。正直、時間はかかると思いますが、トヨタのような会社が同じ意志を持った人を集めることで、必ず実現できると本気で信じています。

香川

その自動運転とFun to Driveというのは、共有できるものがあると思ってよろしいでしょうか。

カフナー

私は運転は好きですが、通勤は嫌いです。皆さんも同じだと思います。なので、私たちは選択肢を作ります。私たちの技術を提供することで、人生をサポートするさまざまな選択肢を作れると考えています。

香川

これからは選択肢があることがFunなんだということも、すごく発見になった言葉でしたね。

鯉渕氏も、“愛車”にはさまざまな形があると考えている。

鯉渕

一度、社長と話をしたときに「愛車って人によって違うんだよね」とおっしゃっていました。ハイパワーでレスポンスが良くて、サーキットを走るようなクルマが好きな人も当然います。一方で、運転に自信がなくなってきた人は、自動運転みたいな技術で後ろから見守ってもらうことで、自信を持って運転ができる。そういう愛車もあるだろう、と。

香川

僕は乗馬の稽古をしたときに、すごくいい乗り手にチューニングされた直後の馬に乗ったら、言うことの聞き方がすごくてびっくりしたことがあるんですよ。下手でもうまく感じる、というか。

クルマも実はそれと同じことをしているんじゃないかという気がしましたね。馬からの信号を微妙に感じて、馬への信号も微妙に送って、というのが一番いい乗り手じゃないですか。

鯉渕

クルマというのは愛馬のようになるべきで、例えば人が乗ったまま崖を飛び降りようとしても、馬は飛び降りない。

香川

なるほど。そう考えると自動運転というのは、馬に乗る感覚と似ているかもしれませんね。

鯉渕

安全な範囲内ではすごく素直にいうことを聞くんだけど、最後の最後は人と自らを守る、という。

香川

それが自動運転の答えに不思議となるかもしれないですね。

中心にあるのは「人」

TRI-AD取材の数日後、香川編集長は東京モーターショーの場にいた。プレゼンテーションの舞台で、豊田社長は「トヨタは人間の力を信じています」と、人に焦点を当てたモビリティ社会について熱くビジョンを語った。

豊田

(TRI-ADで香川編集長が体験した自動運転は)初心者なんですよ。初心者は慎重に運転しますでしょ。ところが、あの自動運転の初心者ドライバーは、人の限界を超えて、クルマの安全を守るような初心者。そういうのにトライしてますから。

香川

なるほど。

豊田

トヨタはやっぱり、1台の試作車を作っているわけじゃなくて、100万台単位で安全を信頼されているブランドだと思うんですよね。

香川

実際にプロダクトという言い方をされていましたけど、商品にならないといけない、ということですよね。

豊田

と思います。やっぱり使うのは人でしょ。Fun to Driveと思うのは人でしょ、と。だから焦点を当てたのは「人」です。

自動運転もFun to Driveも同じ線上にあった

今回の自動運転取材を終えて、香川編集長は何を感じたのだろうか。

香川

自動運転をシリコンバレー、東富士、首都高と3回体験してきましたけど、必ず皆さんがブレずにおっしゃるのは、安心安全のために自動運転を追求している、ということ。このことを何度聞いたか分からない。

ただ単に人に取って代わって楽になったとか、そういうことじゃなくて、やはり事故ゼロを目指す、安心安全でいてほしいという、この切なる願いが社員全員、誰一人残さず持っているということを確認した。これがひとつ大きかった。

そしてやっぱり、Fun to Driveなんだなあ。ここを残しているんですよ。人との共存を残すことによって。この自動運転の残し方が、なんとも粋だなと思いました。

Fun to Drive。安心安全。自動運転。同じ線上に、実はあるんだ。すげえなあ。やられたなあ。なんかやられる予感はしてたんだけど、やられるやられると思ってたけど、やられましたよ。