2019.11.18

編集長、首都高で自動運転の実証実験を体験(前編)

シリコンバレーのTRIToyota Research Institute、東富士研究所と、トヨタの自動運転開発の現場を取材し、体験してきた香川編集長。実は、もう1カ所見ておかなければいけない場所があった。それは東京・日本橋にあるTRI-AD。正式名称はToyota Research Institute - Advanced Developmentという。ここは一体、自動運転の何を開発しているというのか。

今回も張りきって取材に訪れた編集長を出迎えてくれたのは、TRI-AD 最高経営責任者のジェームス・カフナー氏と、最高技術責任者の鯉渕健氏だ。

「僕はシリコンバレー、東富士と見てきましたが、それらと比べてTRI-ADはどんな特徴があるんでしょうか」と、いきなりカフナー氏に疑問をぶつける編集長。それに対するカフナー氏の答えは明快だった。

「TRI-ADでは、自動運転のプロトタイプを製品化しようとしています。」とカフナー氏。プロトタイプと製品の架け橋になること、つまり、TRIや東富士で開発した自動運転技術を、実際に公道を走るクルマに仕上げるのが、このTRI-ADの役割というわけだ。

「いつ自動運転が街中にデビューするのか聞きたい」という編集長の質問に、カフナー氏は「実は、今日試乗できます」とにこやかに答えた。予想外の返答に「ほんとに!? じゃあ今日これから行けるってことですか?」ととまどいを隠せない香川編集長は、地下駐車場に案内された。

駐車場で待っていてくれたのは、自動運転開発ダイレクターの川崎智哉氏、自動運転・先進安全開発部の川浦伸彦氏、そしてテスティングの熊崎健太氏の3名。「4人とも“K”ですね、イニシャルが!」と喜ぶ編集長の目の前に置いてあったのは、レクサスLS。しかも「近い将来の製品化を目指して開発している実験車両」だという。

「僕が35年間走り続けた首都高、ついにハンドルを手放す日が来ましたよ」とすでに興奮気味の編集長だが、まずは川崎氏より自動運転技術について、レベル別に分けられた表を見ながらレクチャーを受けた。

運転支援レベルには0(完全手動)からレベル5(完全自動)まで、6段階のレベルがある。例えば、現在市販されているクルマについている自動(被害軽減)ブレーキやレーダークルーズコントロールといった機能はレベル1にあたり、レベル2までを「運転支援」、レベル3以上を「自動運転」と分類している。前者は、システム作動中でもドライバーが運転タスクの一部を実行するのに対し、後者はシステム作動中はすべての運転タスクをシステムが実行するという違いがある。

香川編集長がシリコンバレーや東富士で乗った自動運転車は、レベル4を目指したもの。一方、今回試乗するクルマは、レベル2に分類される。最終的な安全確認は人が行う必要があるためだ。だがシステム作動中は、基本的に運転操作はクルマが実行してくれる。

レベルの表を見ながら「トヨタとしてはどこ(のレベル)を目指しているんですか?」と質問する編集長。川崎氏は「自動運転技術によって安全なクルマを作りたい」というのがトヨタの考えであり、フェーズごとに適切な技術を使っていくと説明。「上(完全自動運転)が目指す姿というわけではない」という。

合流も車線変更も全自動

これから乗るクルマの概要を理解した編集長、いよいよクルマに乗り込み試乗スタートだ。川浦氏の運転で首都高に入ると、いよいよ手放し運転のスタートだ。システムの作動を確認すると、川浦氏はハンドルから手をはずし、ペダル操作からも足を離す。だがクルマは安定して走り続けている。

「おお、なんだこれ!」と編集長の驚きの声が車内に響く。

ほどなくするとクルマは合流地点に差しかかった。するとクルマは自動的にウインカーを出し、スムーズに本線へと合流した。

川崎

周囲の状況を見て、安全に入れるスペースがあると判断してから入っていきます。

香川

なるほど。もし(スペースが)無かったら減速していたの?

川崎

減速していました。

香川

決断のいい入り方をしましたね。

しばらく走ると、前にペースの遅い車が現れた。

「承認をすることで、自動的に追いこします」と川崎氏。クルマは合図を出して追い越し車線に入ると速度を上げ、十分前に出たところで元の車線に戻った。その間、ウインカーもハンドルもアクセルもすべて自動だ。

この前車の追い越しは、システムの提案を人間が承認することではじめて実行される。これはドライバーの意志を確かめる意味のほか、きちんとドライバーが安全確認をしてほしいという意図もある。ドライバーとクルマが対話しながら運転するイメージだ。

さらに走行すると、クルマは分岐点に差し掛かった。左から2レーンの合流があり、そのすぐ先の分岐を左方向に進まなくてはならない。「ここがまた難しい合流なんです」と川崎氏。人間のドライバーでも緊張する場面だ。だが合流してくるクルマの間のスペースを見つけ、流れに乗って見事に車線変更した。

香川

例えば無理な割り込みに対しても、ちゃんと認識をするんですか?

川崎

はい。「譲り減速」というのがあって、少しスペースを空けてあげます。

香川

それは人の承認を得ようとするんですか。

川崎

そこは自動でやります。

香川

その違いはどこにあるんですか。

川崎

追い越しのみ、承認が必要です。合流、分岐、速度調整、スペース調整は自動です。

香川

なるほど。要は少し“力こぶ”ができるような操作には承認がいる、安全に関わる操作は全部クルマがやるということですね。

川崎

はい。

香川

それはすごく理にかなっていますね。

「これは夜でも(手放し運転で)いけるんですか?雨でも?」と興味津々の編集長。川崎氏によると、もちろん夜でも雨でも同様に走れるそうだ。ただし大雨や大雪など、センサーが対応しきれない状況になると、ドライバーに運転を引き渡すという。

「当たり前のように首都高を走ってるけど、すごいな」と改めて驚く編集長。川崎氏は、首都高はかなり難易度の高い道路だといいます。

香川

先の東京オリンピックのために急いで作った道路だから、狭いし道は曲がっているし。

川崎

こういうところを走り込むことで、我々の技術は鍛えられていくということだと思っています。

とそのとき、香川編集長が乗るクルマの前に、一台のトラックがウインカーを出しながら入ってきた。その瞬間、すっとスピードを緩めてスペースを空ける動作は手放し運転と思えないほど滑らか。入れてくれたお礼にハザードランプを点滅されたトラックを見て「まさかこのクルマが自動運転で走っているとは、あのトラックの人も分からないでしょうね」と笑顔になる香川編集長だった。

運転というより、まるで共同作業

レインボーブリッジを軽快に駆け抜けるクルマの中で「これ、クルマを運転するというより、 クルマと一緒になんか共同作業するって感じですね」と香川編集長。川崎氏は、それこそがトヨタが目指すMobility Teammate Conceptなのだという。

Teammate Technologyは、ドライバーをサポートし、安心・安全を感じてもらう技術です」と最高経営責任者のカフナー氏は説明する。

そのことは、Mobility Teammate Conceptのロゴマークにも表れている。ロゴの図案は、人間と自動運転システムがひとつのハンドルを握っているというもの。これは、「ドライバーと自動運転システムがお互いに協力しながら、同じ方向を向いてクルマを動かしていく」ことを表している、と最高技術責任者の鯉渕氏。「自動運転といえどもドライバーがいなくなるのではなく、ドライバーを非常に大切に、真ん中に据えて考えています」。

人とクルマがパートナーとして助け合いながら安全に運転する。トヨタが描く、そんな未来の世界を体験した、首都高での試乗だった。

後編では、いよいよ香川編集長がTRI-ADの開発現場を訪れ、首都高での手放し運転を実現した技術の秘密に迫る。