2019.09.13

トヨタが目指すのは自動運転ではなく、自“働”運転

東富士研究所で、驚くべき自動運転を体験した香川編集長。自動運転を担当する、先進技術開発カンパニー・チーフプロフェッショナルエンジニアの曽我雅之氏に、改めてトヨタが目指す自動運転についてインタビューした。

自動運転研究には20年、30年の歴史がある

先進技術開発カンパニー・チーフプロフェッショナルエンジニアの曽我雅之氏
香川

本日はありがとうございました。

曽我

こちらこそありがとうございました。

香川

非常に不思議で、なおかつ貴重な体験をさせていただいて、僕としても大満足な1日だったのですけれども。改めて、この東富士研究所の歴史的な部分を聞いていきたいです。ここで自動運転の開発というものが産声を上げ、どのような形で開発を進められていったのか。今までの経緯をお聞かせください。

曽我

まず自動運転の開発そのものは古く、1980年代ぐらいから先行的に技術開発はしておりました。それが世にお披露目されたのは、愛知万博が2005年にありましたが、そのときに道路側に磁石を埋めて、それに沿って走るという「自動バス」の技術をトヨタは展示することができました。

ただ、そういう技術はやっぱり、クルマではなくて道路側に工事が必要だったり、(一般的な商品化と言う意味では)現実的ではありませんでした。で、それからまた10年ぐらい経ちまして、いろいろな技術、AIとか、カメラとか、レーダー、LIDAR*とかのセンサー技術、それからコンピューターの能力も大幅に上がった。ということで、今考えているような自動運転が現実的な製品になるのではないかと考え、5~6年前から本格的に製品を目指した自動運転の開発を開始した、ということです。

*レーザー光を照射し、物体に当てて跳ね返ってくるまでの時間を計測し物体までの距離や方向を測定。 電波を使って測定するレーダーに対して、LiDAR(ライダー)はレーザー光を使って測定するもの。

香川

わずか5、6年前ですか。

曽我

はい。

香川

もともとはどういった形で、自動運転をやってみようっていうことになったんですかね。誰かのひと声だったのか。

曽我

(開発開始に至る前は)やはり「まだまだ自動運転なんてあり得ない」っていう考え方で。(でも)「将来そういうことがあるかもしれない」「手動運転にも役に立つことがあるかもしれない」と考えて、細々とやっておりました。なのでその時点では製品になかなか結び付かない。

一方でトヨタは自動運転の開発を「安全」を第一の目的に行っているのですが、安全面でいうと「ぶつかってから人が傷害を受けない」っていう衝突安全がありますが、でもやっぱりぶつからないほうがいいよね、と。そこで、「できるだけぶつからない」ようにする予防安全の技術というのが、その間に着実に製品になった。

まずABSという車輪がロックしないような技術。それから横滑りをさせない技術。トヨタの商品名でVSCといいます。そういった技術を、脈々と電子制御システムで実現して安全性を上げていくということが、もうひとつ、自動運転の流れとは別にあったわけです。

そういう技術があって今の技術ができてきました。数年前から本格的に自動運転(の開発に着手)と言っているのですけども、その前には長い、もう20年、30年の歴史があって、自動運転の技術につながっているというご理解をしていただければ。

香川

曽我さん自身も、当初から自動運転の開発をされていたわけではなくて、ブレーキの部門やいろいろな業務を担当したのち、ここ数年の流れで自動運転のところに今、部門があるということなんですね。

曽我

はい、おっしゃるとおりです。

香川

はあ。まあ歴史としては比較的やっぱり新しいと。

曽我

そうです。

TRIは「認知」、東富士は「判断」と「操作」

ギル・プラットCEO
香川

シリコンバレーのTRIとこの東富士との違いっていうのは、改めて何なんでしょうか。

曽我

人の運転行為は「認知」して「判断」して「クルマを操作する」という流れで物事ができていてそれは自動運転でも同じです。で、認知というのは人の知能と同様ですから、AIのような技術がないと難しいです。ところが自動車の技術者の中にはAI技術者は少なかった訳です。で、そういったところが必要だということでTRIを数年前につくりまして、技術者を集めて開発しています。認知とか知能化の部分はそこでピースを埋めようという考え方なんですね。

一方クルマの状態、今現在はこういう状態で走っているけど、「じゃあハンドルをもうちょっとこう切って」とか「ブレーキちょっと掛けて」という判断と操作の部分は、相変わらずクルマ屋としてしっかりやらなきゃいけなくて、TRIとトヨタにいる我々が分担しながら、両方で一緒に自動運転を作っている、という考え方になります。

トヨタの売りは「乗り味」

乗り心地の研究
香川

ほかのIT企業も今、自動運転に躍起になっている中で、トヨタという企業の特色、「これがわれわれの自動運転の売りである」というものは何でしょうか。

曽我

「乗り味」とか「乗り心地」というところが、ひとつ明確にあるのではないかと思います。

実は私は会社へ入ったとき、乗り心地の研究を少ししていたことがあって。いろんなクルマに乗って、「乗り味がいいよね」とか「いい感じで、例えば体に当たりは少ないんだけども、ちょっと酔ってしまう」とか、いろんなことがあって。ただデータで取ると、なかなかその差が分からない事があるんです。

人間っていうのはすごく高度なものですから、感じていることが正しくて、(差が分からないのは)データの取り方が悪いとか、見方が違うとか、本当はこう見なきゃいけないのにこっちから見ているから差がないのだろう、とか。それを追求していくと、あ、こういうことなのか、というのがだんだん分かってきました。そういうことを積み重ねて、今のトヨタのクルマの乗り心地改善にも生かしています。

自動運転では、自動運転なりの安心を与える運転とはなんだろう、というところからはじまり、じゃあ矢吹の運転見てみよう、社長の運転見てみよう、いろんなドライバーの運転見てみよう、自分の運転はどうなんだ、などと比較して、いろんな見方をしていく。その中で少しずつ答えが分かってきて、今の状態ができたと思います。

自動運転じゃなくて、「自働運転」!?

非常に楽しい取材でした
曽我

あとはやっぱりトヨタの生産方式の中に「自働化」という言葉がございまして、その自働化の「働」は、「動く」ではなくてにんべんを付けた、人が絡んだ自動化っていうことなのですけども。何かというと機械に人の知恵をちゃんと入れて、人を機械の奴隷にしない。人はもっと高度なことをすればいいんだと。それで不良が出そうになったら機械が自分で止まって、不良品を出さない。人はそれを直して、また生産再開するっていうことができるので、ずっと見てなくていいんです。

今の運転ってある意味、人にそれを強いているところがありますから、我々の中ではトヨタの自動運転は、にんべんの付いた「自働運転」じゃないのっていうような話もしているんです。

香川

ありがとうございました。非常に楽しい取材でした。ここで運転ができるように頑張ります。

曽我

そうですね、矢吹に言っておきます。

香川

あ、ぜひ!