2019.09.07

自動運転、ありかもな(東富士研究所後編)

東富士研究所のワインディングコースで香川編集長が体験した「うまい」自動運転。それはテストドライバー矢吹氏の運転を徹底的に再現することで実現した、安心して身を委ねられる運転。それは結果的に感性に訴えかけ、楽しささえ感じさせてくれる運転だった。

だがここでの自動運転研究は、それだけではない。次に香川編集長が見たのは、さらに一歩踏み込んだ世界だった。「もう一台乗っていただきたいクルマがあります」と案内された先に待っていたのは鮮やかな黄色がまぶしいレクサスLCだ。

先進車両技術開発部の谷川雅彦氏とともに乗り込んで向かったのは、水がまかれた円形のテストコース。コースインすると、谷川氏はすぐにクルマを自動運転に切り替えた。

ドリフトだって遊びじゃない

絶妙なアクセルコントロールでドリフトを続ける

「では、ドリフト入れます」という声とともに、リヤタイヤがスライドをはじめた。これには香川編集長も「滑ってる!滑ってる!」と驚くしかない。クルクルとステアリングが勝手に回転し、絶妙なアクセルコントロールでドリフトを続ける。ドライバーはただ座っているだけ、何もしていない。

確かにすごい。楽しい。だが、これは自動運転に必要な技術なのだろうか。クルマを降りた編集長は、曽我氏にたずねた。

香川
ドリフトは必要なんですか?自動運転に?

曽我
クルマというのは、いろんな環境で使われます。そして残念ながら横滑りを起こしてしまったり、不安定な状態になるということもあり得ます。そういったときに、この(自動運転)ドライバーですと、ちゃんと安全に保ちながら行きたい方向に走らせることができる。

香川
要は安全のため。

曽我
TRI(Toyota Research Institute)に行かれたときに、ギル(ギル・プラットCEO)がガーディアンという言葉を発したと思うんですけれども、~中略~ドリフト状態になっても、この(自動運転)ドライバーが守ってくれる、という風に理解すれば、これは遊びではなくて…。

香川
感覚は遊んでいましたよ。
いい夏休みだな、とか思っちゃいましたもん。
水しぶきもシャーって上がるし(笑)。

「逆に僕らは遊んでいる感覚といっていただけると大変ありがたい」と先進シャシー開発部の河西栄治氏。なぜなら、ドリフト状態でも安心して楽しめていられるほどきれいな挙動で制御できているということだからだ。

自動運転時代の”もっといいクルマ”

まるでゲーム機のコントローラーのような装置

「さらにもうひとつ、乗ってもらいたいものがある」と曽我氏が切り出す。そこで香川編集長に渡されたのは、まるでゲーム機のコントローラーのような装置。クルマが自動運転モードに入ると、助手席の香川編集長はさっそく操作を試してみる。編集長の操作に従って、クルマは自由自在に進路や速度を変えた。まるでゲームの世界のような感覚だが、この研究は一体何のためにしているのだろうか。

「我々がこの自動運転の目的のひとつにしているのは、“Mobility for All”という考え方です」と河西氏。自動運転をベースにしてなるべく運転の負荷を減らすことで、誰もが無理なく安全に運転できるモビリティを実現したい。そんな思いが詰まった研究だ。

簡単な操作で自分の意志を伝える

「私には娘が2人いるんですけど、残念なことに、2人ともクルマを運転しないんです」と切り出す曽我氏。その理由は、運転するリスクに対して得られるもの(移動)が電車とあまり変わらないと思われているためだという。30年間トヨタでクルマの開発をしてきた曽我氏の娘さんでさえ、そのような考えを持っている、そういう時代だ。

では、どんなクルマなら買ってもらえるのかと考えた時、簡単な操作で自分の意志を伝えることができ、なおかつ安心・安全なクルマの姿が浮かんでくる。

香川編集長は、シリコンバレーのTRIで体験した、自動運転がまるで守護神のようにドライバーを見守ってくれる「ガーディアン」システムと今回の体験を重ね合わせる。自動運転でありながら自分の意志が反映されるのは「本当に不思議な感覚でした」と編集長。

そこには今までにない新しい楽しさがある。こんな自動運転が普及すれば、今はクルマに興味を持っていない人も、興味を持ってくれるのではないか、と曽我氏は期待している。さらに、「今まで乗れなかった人たちが乗れるようになる。それが自動運転時代の“もっといいクルマ”なのではないか、と漠然と考えています」と思いを語った。

やっぱりクルマにはすごい“楽しさ”がある

違うアプローチの自動運転を試した香川編集長

前回は、世界の最先端技術が集まるシリコンバレーのTRIで自動運転を体験。今回の東富士研究所では、人間の感性をベースにしたまったく違うアプローチの自動運転を試した香川編集長。ドライバー不在の自動運転のはずなのに、そこに人格のようなものを感じたという。

香川
誰も乗っていない普通のクルマだったら、「クルマが置いてあるな」と思うだけだけど、このクルマは「いたいた、ほっといてごめん」という感じがするから。

エンジンを切れば眠っている感じがするし。自動運転のクルマのほうが愛車感は、実は強くなるんじゃないかなという予感がしたんですね。

人が入っている、パートナーがいるわけですから。その人と仲良くなるというのが、これからの愛車のひとつのスタイルかなと思います。

クルマが好きだからこそ、無機質な自動運転には抵抗感を持っていた編集長。だがTRI、そして東富士研究所の取材を通じて、その考え方は変わりつつあるようだ。

香川
やっぱりクルマにはすごい楽しさがあるっていうことを、自動運転を通して教えられたのは、ちょっとびっくりしました。

だからその先にある
“FUN to DRIVE”を、見てみたい気がしますね。

自動運転、ありかもな。ちくしょー!

<自動運転に上手い、下手がある!?(東富士研究所前編)はこちら>