2019.09.06

自動運転に上手い、下手がある!?(東富士研究所前編)

シリコンバレーのTRI(Toyota Research Institute)で自動運転の最前線を取材し、「自動運転への認識が変わった」という香川編集長。以前に訪れたニュルブルクリンクでは「自動運転とFUN to DRIVE、どっちを取るんだトヨタ!」と自動運転に否定的な考えを隠さなかった編集長だが、TRIで初体験した自動運転は、予想以上に楽しかったようだ。

そんな香川編集長が「トヨタは日本でも自動運転を研究している」という情報をキャッチ。さっそくその研究内容を探るべく、トヨタの機密が詰まった東富士研究所を直撃した。

東富士研究所のワインディングテストコースで香川編集長を出迎えたのは、先進技術開発カンパニー・チーフプロフェッショナルエンジニアの曽我雅之氏と先進車両技術開発部の佐々木健二氏。そしてニュルブルクリンクや下山テストコースで編集長を乗せてドライブした、テストドライバーの矢吹久氏もいる。

東富士研究所を直撃

「矢吹さんじゃないですか!今日、僕は自動運転の取材にきてるんですよ」といぶかしがる編集長に、「実は、我々(テストドライバー)の仕事も密接に関係しています」と説明する矢吹氏。

ハンドルを握るのが仕事であるテストドライバーが、自動運転の開発現場で一体どんな役割を果たしているのだろうか。

東富士で研究しているのは、自動運転の「乗り心地」

香川編集長がまず疑問に思ったのは、なぜ同じ自動運転というテーマを、シリコンバレーと東富士の2カ所で研究しているのか、ということだ。

ギル・プラットCEO率いるTRIを訪問

ついひと月ほど前、香川編集長はタテシナ会議にも登場したギル・プラットCEO率いるTRIを訪問し、最先端のAI技術やロボティクスを体験した。そこでは、いくつものセンサーを積んだ自動運転車が複雑な他車の動きを予測しながら走り回り、AIを搭載したロボットが自分で学習しながらおもちゃを片づけたりしていた。いわば、誰もが思い浮かべる「一歩先の未来」の光景だ。

そんなキラキラした先端技術を研究するなら、数多くのテクノロジー企業と最高峰の頭脳が集まるシリコンバレー以上にふさわしい場所はない。

では、東富士研究所では自動運転の何を研究しているのだろうか。曽我氏は、どちらも「交通事故死傷者ゼロを目指すという目的は同じ」とした上で、こんな風に説明してくれた。

曽我
安全で安心な自動運転のクルマをつくる、という目的に対しては、彼らも我々も一緒だと思っています。

ただし彼らは、認識して知能に落とすという仕事を中心にやっていまして、我々クルマ屋としては、判断してクルマをどう動かすか…

クルマの“乗り味”、“乗り心地”のようなことを研究しております。

「乗り心地が自動運転と関係あるんですか?」と困惑気味の香川編集長に、曽我氏は「乗っていただければ分かると思います」と力強い答え。編集長はさっそく研究車両に乗り込んだ。

クルマはいつの間にか自動運転中

コースに入り、気がつくとドライバーはステアリングから手を放し、いつの間にか自動運転に切り替わっていた。「え、自動なの!?」と驚きの声を上げる編集長。クルマは自動運転とは思えないスピードでコースを疾走していく。車線の真ん中をただなぞるのではなく、アウト・イン・アウトのライン取りで、コーナー出口から加速していく。前後のG(体が押しつけられる力)と左右のGが滑らかにつながる走りは、まるで熟練ドライバーがスポーツ走行しているようだ。これまでの自動運転のイメージとあまりに違う“ドライビング”に、「意志がある!」と編集長も興奮気味だ。

乗り心地がいいだけではない。自動運転に「安全」が不可欠なのは当然だが、このスムーズな走りは乗員にとって「安心感」につながる。運転が上手な人のクルマに乗っているときの、リラックスして身を委ねられる感覚。それがこのクルマにもあるのだ。さらに…。

FUN to DRIVE

「楽しいという感じも、少し出てきているんじゃないですか?」という曽我氏の言葉に、「楽しい、楽しい!」と即答する編集長。「やっぱり“FUN to DRIVE”なんですね」と感心しながら自動運転を楽しんだ。

役者的にいえば、「意志がある芝居」

香川編集長は開口一番「感動した!」と叫んだ

自動運転車から降りてきた香川編集長は、開口一番「感動した!」と叫んだ。

香川
完全に、僕は自動運転の定義を間違っていましたね。
のっぺりとただ前に安全にまっすぐ進むのが自動運転とすると、(このクルマは)完全に、誰かいる。

役者的にいえば「意志がある芝居」なんだよね。

機械的な運転ではない、人間の意志を、運転から感じ取ったようだ。

曽我氏の運転でコースをもう一周

続いて編集長は、「普通のドライバー」である曽我氏の運転でコースをもう一周。「さっきの方がGがかからないですよ!」「明らかに負けてますよ!」と、先ほどの自動運転とは明らかな違いを感じた編集長。「むしろ曽我さんの運転の方が安心できなかった」と率直な感想を伝えた。

曽我氏が伝えたかったのは、自動運転は、ただ「安全」に走れば「安心」というわけではなく「乗り心地こそが安心感を伝える」ということ。以前、曽我氏が豊田社長と話したとき、「母親の握るおにぎりは安心だよね」という話しが出たという。

クルマの運転でいう“母親のおにぎり”とは何か? 過去に、目隠しした状態でも、7割くらいの子供は自分の父親の運転が分かり、そして父親の運転を安心と感じた、という調査の例があったそうだ。このように、「安心」というのは運転に強く関係するもの。そんな中で、トヨタは自動運転における「安心」をどうやってつくるというのか。

そこで出てくるのが、テストドライバーの存在だ。彼らの「うまい運転」こそ、安心を感じることができる運転なのではないか。それを自動運転に取り込むことこそ、クルマ屋“トヨタ”ならではの技術になると曽我氏は考えている。

Gとその変化を表すグラフ

テストドライバー矢吹氏の「うまい運転」は、データ上でもはっきりと示されていた。見せてくれたのは、Gとその変化を表すグラフ。グラフ上の円が小さいほどGの大きさや変化が一定で、滑らかな運転ということになる。さまざまなドライバーのデータを見ると、どれもグラフ上に大きくいびつな円が描かれている。一方、矢吹氏のデータは中央に小さな円があるだけ。その違いは歴然だ。そして先ほど香川編集長が体験した自動運転のデータは、矢吹氏に近いレベルにまで迫っていた。

どのタイミングでステアリングを切り、ブレーキを踏んでスロットルを開けるのか。矢吹氏の運転を徹底的に研究して実装することで、香川編集長が「意志がある!」と表現した「うまい自動運転」が実現されていたのだ。

「僕が最初に同乗させていただいたニュルブルクリンクでも、スピードは200km/h以上出てたけど大丈夫、安心という感じを味わったのはウソじゃなかったな」と、改めて矢吹氏のドライビング技術に驚く香川編集長だった。

凄腕技能養成部を案内してもらった

続いて矢吹氏が所属する凄腕技能養成部を案内してもらった編集長。そこには同じにしか見えない部品が大量に保管されている。計算上は理想的な特性のはずのクルマでもテストドライバーが乗ってみると、「なんか違うな」と感じることがある。そのほんのちょっとした違いを人間の感性で発見し、部品の交換と走行を繰り返しながら仕上げていくのがテストドライバーの仕事だという。どんなに計算技術が発達しても、最終的には人間が乗って感性で判断する。このプロセスは「もっといいクルマづくり」には欠かせない。

以前、ニュルブルクリンクで矢吹氏に「自動運転になったら矢吹さんは必要ないんじゃない」と言ってしまった香川編集長。だが東富士研究所で矢吹氏の感性が反映された自動運転を体験して、その考え方は180度変わったよう。「矢吹さんに謝ります」と潔く謝罪する編集長だった。

謝罪する編集長

ロジックと感性は、自動運転という車の両輪

ひと月前に取材したシリコンバレーのTRI(https://youtu.be/tFZT9rKX16o)は、いかに正確に周囲の状況を認識してベストな判断をするか、という部分に焦点を当てて研究していた。いわば、人間の目や論理的な判断を行う頭脳の部分だ。だが、実はそれは自動運転の一部分。

乗る人に安心感を持ってもらうために東富士研究所では、テストドライバーの感性を尊重し、人間の感覚に寄り添った運転を追求していた。

徹底的にロジカルに技術を突き詰めるTRI。徹底的に人間の感性を突き詰める東富士研究所。そのどちらも、「交通事故死傷者ゼロ」というゴールを目指す上で欠かせない、車の両輪だった。

<後編では、香川編集長がさらに想像を超える自動運転を体験!>