2019.08.02

AI界のカリスマ、トヨタの自動運転を語る

未来のクルマはどうなっていくのか。そのヒントを求めて香川編集長がやってきたのは、アメリカ西海岸のシリコンバレーにある研究所Toyota Research Institute(TRI)。ここでは高度安全運転支援や自動運転に関する研究が日夜進められている。

そのTRI最高経営責任者を務めるのがギル・プラット氏。米国DARPA(国防高等研究計画局)でロボット競技大会を率い、AIの世界的権威としても知られる人物だ。果たして自動運転は“Fun to Drive”と両立できるのか。香川編集長が質問をぶつけた。

原点は、少年時代の悲しい経験

世界では毎年、死亡事故が100万件も発生しています。
香川

このTRI、今日来ましたけど、ここのミッションというのは何なんでしょう。

ギル

TRIのミッションは、生活の質の向上です。一番大切にしたいのは、日常の安全性です。世界では毎年、死亡事故が100万件も発生しています。その数をゼロにしたいんです。

交通事故を防ぎたいという思いは、子どもの頃からありました。自分が小学生の頃、帰宅中に交通事故を目撃しました。目の前で起こったその事故の被害者は、学校の友人でした。事故のことでいくつかはっきりと憶えている事があります。

最初に思い出すのは友人の死の悲しみです。そして、クルマの運転手のことも憶えています。友達は歩道を自転車で走行中に 誤って車道に飛び出してしまったのです。運転手は何も非が無い事故だったんです。友人の死だけでなく、頭を抱え地面にうなだれている運転手の姿を今でもはっきりと憶えています。運転手はその後人生ずっと自責の念に駆られて生きているだろうと思います。

そういった経験がトヨタに入社したきっかけになったのです。もしドライバーが何かミスを犯しても 例えば年配の方でも、AIを使うことで事故を防止したいんです。

初めて豊田社長に会った時 交通事故をゼロにすることは難しいだろうと言われました。すぐに解決できるような技術は無いという事を 認める謙虚さが社長にはありました。しかし、毎日努力を積み重ねることで 交通事故ゼロは達成できると思います。

香川

そのトヨタが一族がずっと言ってきたその「Fun-to-Drive」、やっぱり運転することは楽しくなくちゃいけないということと、自動運転というのはすごくその相反している、反対のものではないかという風に一見思われがちですけれども、今ギルさんは、その2つをどういう風に、こう、溶かして、どっかに向かおうとしているのでしょうか。

ギル

自動運転の開発をしている多くの人たちは、クルマから運転手をなくすという考えを基に研究しています。タクシーサービスを目的として開発している会社がほとんどです。

トヨタは、違う理由を掲げています。自動運転で“Fun-to-Drive”を目指しています。いろんな人々のニーズや欲望がある中で、モビリティのある世界が築かれていくと思いますが、高齢化社会が進むとアシスト無しで自分で運転する事が難しくなると思うんです。そういう場合は、ガーディアンで年配の方が安全に運転することが可能になります。

香川編集長、ガーディアンを体験

香川

こんにちわ。I’m Kagawa.Nice to meet you.

TRI自動運転ソフトウェアエンジニア ケント・サマー

はじめまして。

香川

はじめまして。

ケント

ガーディアンを、2種類のシミュレーションで体感していただきたいと思います。

香川

わーすごい。乗りました。わーこれ楽しそうだなぁ。じゃあ行くよ。

ケント

緑色のラインで、安全に運転できる領域を表示しています。

香川

あーでももう勝手にやってるね。勝手に行くね。こっちが遅れたら早めに行くね。

ケント

次は”Fun to Drive”を体験できるコースを用意しています。

香川

なるほどね。

すごいね、意外に自分で運転してるね。システムに支えられているっていう意識があまり無い。

自動運転のクルマを作ってはいけない!?

香川

あの僕今日シミュレーターを初めて体験してみて、一番気になるのが、いつできるんですか。早く手に入れたいと思うんだけど。

ギル

安全システムの一つとして、ガーディアンテクノロジーを搭載することが数年後には可能になるでしょう。

トヨタのクルマには、すでに安全システムが搭載されています。例えば、どこかに衝突しそうになるとクルマが自動で止まるというシステム。自動(被害軽減)ブレーキと呼ばれていますね。非常に重要なシステムで、多くの命を救っています。

ガーディアンは、その役割をより強力にし 多くの衝突を回避します。「ガーディアン・フォー・オール」という取り組みも最近始めました。「ガーディアン・フォー・オール」という考え方は 開発したシステムをトヨタのクルマだけでなく 他社のクルマにも使ってもらうという考えです。私たちだけのガーディアンではなく、みんなのガーディアンなのです。

人命が、一番大切だと信じているので、私たちは、全てのクルマ会社に この技術を提供したいと思っています。

香川

すごいね。これが実現したらすごい、すごいことだね。

ギル

これは、蓼科にある聖光寺の写真なのですが、ここは交通事故でなくなった方たちとその遺族のために トヨタによって建てられたお寺です。

そして毎年、その方々を祀る行事が行われます。この写真を撮った時、住職から自動運転はよくない事だと言われました。自動運転は、人がクルマをコントロールできないものだからだと。

住職は自動運転のクルマを作ってはいけないと真剣に語ってくれました。私は、儀式が終わった後 住職のもとへ向かい お話をする機会をいただき、ショーファー(完全自動運転)と、ガーディアンの違いを説明させていただきました。説明をすることで、住職にガーディアンが素晴らしいアイデアと理解していただけたんです。

年配の方だったのですが、とても記憶力が良くて、訪問するたび「ガーディアンの人!」と言われます。

なぜ冷蔵庫は愛さないのに、クルマは愛すのか

香川

今それこそ、シェアカーのようにスマートフォンで自分のキーを出して、中に入れたら、車に乗って、降りたいところで降りて乗り捨てるって言うようなシステムができたりするくらい、自分の車に自分が乗るって感覚がなくなってる。

まして自動運転が出てきて、僕は運転しません、でもこの車は勝手に走ります、ってなると我々が持ってきたその「愛車」、この車に愛着があるんだと言ったニュアンスがなくなってしまうんじゃないかと思って心配なんですけど、その点についてはどう思われますか。

ギル

人から愛されるような技術を持つことって大事だと思うんです。初めて豊田社長に会ったとき、こんな事を言われました。

「ギルさん!人ってクルマを愛すよね?でも、冷蔵庫を愛することはないよね?なぜだと思う?」

言われてから、4年間考えています。でも、やっとわかったような気がします。クルマは、心を豊かにしてくれる乗り物だと思うんです。でも冷蔵庫は、食べ物を入れておくだけの機械なんですね。

クルマを使えば、自分で歩くよりも、より速くより遠くへ行くことができるし、より多くのことを、できるようにしてくれると思います。だから、運転する楽しさを無くしてしまうような技術は開発しないように気をつけなければいけない。豊田社長は、この部分を非常によく理解していると思うんです。

これは、章男さんの人形なんですが、「期待を超えろ」って書いてあります。社長が(冗談で)言うには、人形の中に小型カメラと小型マイクが仕込んであるらしいんです。

香川

(笑)

ギル

社長にいつも見られてるかもしれませんね。