2019.05.06

香川編集長が見たレースの意義とは

「レースは社長の道楽なんじゃないの!?」「レースは本当に必要なの?」と疑問を抱えながらドイツを訪れた香川編集長。レースの厳しさや緊張感を肌で感じ、ドライバーやメカニックたちと話す中で、どんなことが見えてきたものか。その感想を語った。

速さを競うのではないレースってあるんだな

取材を終えて、感想を語る香川編集長
Q. レースを見た率直な感想をお聞かせください

「レースではクルマの持っている可能性の一番大きなところ、今まで僕たちが体験してないところ、もしかしたら普段はいらないのかもしれないけれど、そういった状況を体験することでクルマのすべてが洗い出される」、そんな説明を聞きました。それを実際に体験できたのは、とても豊かで貴重な経験をさせてもらったと思います。

レースを熱心に観戦する香川編集長
Q. トヨタがレース参戦することをどう思いましたか?

スープラというスポーツカーを17年ぶりに復活させて、毎年レースに出ていろんなものを検証する。(ニュルに来るまでは)それに対して懐疑的でした。でも、やはり極限状況、クルマにとって悲鳴をあげるような状況でなければ出てこないものがあるんだな、と。

速いとか遅いとかスピードは一切問わない。安全であるか。安心できるか。いいクルマか。クルマの原点ってそこなんだろうなって思いました。それにしても、速さを競うためにやるのではないレースが存在するっていうこと自体が目からウロコでしたね。それがこのニュルブルクリンクだった。

誰もが口にした、「人をつくる」ということ

レースチームのメンバー
Q. レースチームにインタビューをした感想をお聞かせください

メカニックの方のほうが、メカニックっぽくないことを言っている。「人をつくる」とか「やっぱ人ですよね」とか。レーサーのほうがよっぽど「ハンドルのちょっとしたレスポンスに応えて…」とかメカニックのようなことをおっしゃるなと。

レーサーという、すごくワイルドなことをしている方のほうが緻密なことをたくさんおっしゃって、メカニックのようにすごく緻密なことを要求されるひとたちのほうが、対極にある人間力だったり人の持ち味だったり、そういったところを大切にされている。そこが面白かったね。

ピットにかけられていた成瀬さんの写真を眺める香川編集長

最終的にこういう精密なものは、実は人間一人一人が作っている。その人の想いだったり、力量だったり、幅だったり、度量だったりが反映される。そんな言葉が、どの人の口からも聞こえてきました。

人をつくる。でも人をつくったら終わりじゃなくて、「人をつくる」という行為を伝承していく人をつくるってことだと思う。成瀬さんはその役目を果たされたと思う。それが平田さんにいって、関谷さんにいって、そしてまた誰かにいくと。

ピット作業の様子

(クルマは)一人でずっと生産するわけじゃないから。人間という言葉を持っている動物、ハートを持っている動物としては、それを繋いでいくこと。それが人をつくることなんだな、と。「人をつくる」ということを伝えていってつくることなんだな、と思いましたね。

いい人づくり = いいクルマづくりなのか?

Q. いい人づくりが、いいクルマづくりに繋がると思いますか?

人づくりといっても、何というか、一握りの人で継承していくニュアンスがあるんだよね。全員スッゲー人たちで作ってるっていう作業は、俺は無いような気がするんだよ。集団ってやっぱり、アリでも3割サボってるっていうくらいだからさ。やっぱり、そうじゃない人たちもいる集団の中で、「いい人」からは漏れた人たちも作ってるわけでしょ。その総体としての産業は「いいクルマ」に結びつくのかっていう。なんかそこなのかもなぁ。

全員が「いい人」になるまで、ものすごい時間かかるじゃん。だって全員ニュルに連れてこないといけないんだから。そうじゃなくて、この教えをいうと「はい!分かりました!」ってダーッて軍隊みたいに動きそうな感じするんだよねトヨタは。だから可能性あるんだけど。

でもそうじゃない人たちもいる中で、「いいクルマ」は本当にできていくのかっていう、そこなのかな。「いい人づくり」が「いいクルマづくり」に100%結びつくっていうのが、まだちょっと腑に落ちないところがある。

知らない世界に連れて行ってもらえる

霧のニュルブルクリンクを走るスープラ
Q. コースを実際に体験した感想をお聞かせください

あのね。クルマってやっぱり性能が爆発的ですよね。で、その一部しか使ってないわけですよ、我々は。それは、移動手段という一部を使ってる。

でも実は僕が今回ニュルで体験したようなことが、クルマの持っているもうひとつの、最大の魅力なんだなって再確認して。実際やっぱり楽しかったし。知らない世界に連れてってもらえるからね。

コース体験中の香川編集長とハンドルを握るプロドライバーの矢吹さん

これは申し訳ないけど、江戸時代の人は知らないわけですよ。移動手段ではじめてわらじから馬に乗ったときに「わー、楽だな!」と思っただろう。で走ったときに「うわすごいな!」って思っただろうけど、やっぱりその馬に乗った時の爽快さとかも感じてたはずなんだよね。

そのものすごい一気に広がった感覚が今回のニュルだったと思うから。この知らない世界に連れてってくれるっていうのはやっぱりクルマ、人間が作ったクルマがこちらに恩返ししてくれた「FUN」の部分だと思うし、これはやっぱり、いつもいつも染み入ってくる感覚のような気がしますね。

自動運転とFUN to DRIVE、どっちを取るんだトヨタ!

取材後のインタビューに答える香川編集長
Q. 今回のレースと、自動運転は結びつくと思いますか?

選択肢が将来二つしかなくなるとしたら、自動運転なのか、FUN to DRIVEなのか、どっちを取るんだトヨタ!ってことかな。

流れが自動運転になったら、どうすんの、ここ。自動運転でレースってやるの?レースってどうなるの、自動運転になっちゃったら。なくなるの?

なくなっちゃダメだよね、面白かったもん。
自動運転になびいてほしくないね、だからトヨタとしては。なんかこっちを失わないでほしい。日本の自動車業界の流れがそうなったとしても。

コース走る、香川編集長を乗せたスープラ

こういうFUN to DRIVEの部分、楽しいクルマが持っていた余剰部分とそこ(自動運転)って結び付けられないのかな?って思ったりするんだよね。

何かがあるはずだな、とは思うんだよね。安全性だけ、危険なことダメですよっていう風潮だけではない、もう一回、針が向こうに振れたときに出てくるものが。今のトヨタの章男社長以下、これだけの姿勢を持っていたら、ひねり出せる気がする。見てみたいなって。苦言というよりも、たぶん生み出せるんじゃないかな。

インタビューを終えた香川編集長