2019.05.04

編集長がニュルを疾走!トヨタがニュルにこだわる理由

取材中の香川編集長

ニュルブルクリンクで壮絶なレースを目の当たりにしたトヨタイムズ編集長の香川照之。なぜトヨタはここまでするのか。このレースが本当に「もっといいクルマづくり」につながるのか。そんな疑問が湧き上がってくる。

そこで編集長がインタビューを敢行した相手は、レースでハンドルを握ったドライバー、矢吹久。普段は車両評価ドライバーとして開発中の市販車をテストするトヨタ自動車の社員だ。矢吹が語る「トヨタがニュルに参戦する理由」とは?

速さを競うだけならプロのレーサーに任せればいい

ドライバー 矢吹久さん1
香川

1日レースを見させていただいて、やはり非常にハイスピードで、危険を伴うこのレースに、トヨタがやはり参戦するという理由はなんなんでしょう。

矢吹

レースっていう形で見られるとスピードの争いになるんですけども、我々GAZOOは、速さよりも「人を鍛える」「クルマを鍛える」というのが一番の目的です。(スピードを)競い合うというだけであれば、プロのレーサーに任せちゃえばいいんですが、我々は一イチ従業員として、教育の一環でやってますので。

ここでフィードバックした技術が市販車に生かされる

ドライバー 矢吹久さん2
香川

トヨタというといろいろなクルマがあるじゃないですか。

矢吹

はい。

香川

それこそ速いスープラだったりレクサスだったり。しかし一方でカローラのようないわゆる大衆車、あるいは、センチュリーやクラウンのような高級サルーンカー。

今日こういうレースで行われていた、何かを競ったり、ここが遅かったら速くしよう、改善しようというテクニックを見つけたりといったことが、カローラやセンチュリー、クラウンにはどういうふうに生かされてるんでしょうか。生かされていないんじゃないか、とも思うんですけど。

矢吹

いや、そんなことないです。

ニュルブルクリンクのコースというのは、一般のサーキットと違ってアップダウンもあれば、すごい高低差もあるんですね。その中で「安心・安全に走れる」っていうのをフィードバックしているんですよ。コーナリングを「速く」じゃなくて、「安定して」走る。そのときにサスペンションのジオメトリ(構成部品の配置・調整)をこうしたほうがいいとか、それが一般の大衆車にも入りますので。決して、レーシングカーだから特別、とかじゃないんです。

香川

ほう。

矢吹

クラウンであれ、カローラであれ、ここでフィードバックした技術が全部入ってきます。

ニュルでしか体験できない過酷な「上下G」

ドライバー 矢吹久さん3
香川

それがニュルブルクリンクという、いわゆる難易度の高いコースで、より見つけやすいと。

矢吹

見つけやすいんです。日本のコースだと、単純に前後G※、横Gしかないんです。ところがここでは、すごく過酷な上下Gもあります。日本では得られないような。

香川

上下はなかなかないですね。ここは上下があると。

矢吹

はい。

香川

速いスピードで走ることによって、そういうようなカローラのようなクルマに何が生かされるかっていうのを、ちょっと体験してみたいんですけれどもね。

矢吹

あ、そういう話なら明日ぜひとも。クルマを準備しますので。

香川

の、乗れる?

矢吹

ええ、ぜひとも。ちょっと今から準備します。

※Gとは、クルマにかかる加速度のこと。前後Gは前後方向に、横Gは左右方向に押される力を表す。

ニュルのコースを香川編集長が自ら体験!

ドライビングを務めてくれる矢吹久さんと握手をする香川編集長
香川

さあ、それではこのスープラでニュルブリンクのコースを堪能してきたいと思います。行ってきます!

走り出す、香川編集長を乗せたスープラ

矢吹さん、ではよろしくお願いいたします。乗ります。
さあいよいよトラックに入ります。これが昨日(レースを)やってたところか。

ホームストレートを疾走する、香川編集長を乗せたスープラ
矢吹

気持ち悪くなりますよ。

香川

そんなになりますか?

矢吹

ええ。

香川

おいおいおい、ブリブリ言ってますよ。スープラが。

車から見たブラインドコーナー

あーあーあ、ここは前が見えない、この先も見えないじゃないですか。ここもだってすごいカーブですよ。まったく見えない、すっげーカーブですよ。

矢吹

ニュルができたときから、あそこは変えてないんです。

香川

あの形。マゾだなこのコース。

(高低差で)コースの中で耳がツーンってするんですよ。飛行機乗ってるんじゃないんだから。

でも、スープラはやっぱり安定してるんですね。ニヤニヤしちゃうな、これ。

アスファルトじゃない部分を走る、香川編集長を乗せたスープラ

これ、どこ走るの!?ここ走るの!?おいおいおい(笑)!道じゃないじゃないですか、これ!

トヨタらしい当たりの柔らかさ

ピットに戻ってきた、香川編集長を乗せたスープラ
香川

ありがとうございました。いやー。前が見えないのは大丈夫なんですか、あれは?

矢吹

ええ、まあラップ数はかなり走ってますので。

香川

いやー、200(km)を超えた世界はね、ちょっとあの、言葉が出ないですね。

矢吹

そこを入っていくからなかなか初めての人はびっくりしますね。

香川

もうなんか、違うことで頭がいっぱいになりますね。(何回も)走っていくと違う感じになるんですかね。

矢吹

そうですね。

コーすの体験を終えて、スープラから降りてきた、矢吹さんと香川編集長
香川

今日改めてこのスープラに初めて乗ってみて、よくわかりました。当たりが柔らかい。硬く掴むんだけどそれをこう、何でしょう、トヨタらしいとしか言いようがないかな。

矢吹

ええ。

香川

特にドイツの車だともっとこうカチッと、カンカンカンってくるような感じがするんですけど。

矢吹

無駄にこう、フラフラする感じはないと思うんですけども。ピタッと止めて、なおかつ当たりが柔らかいっていう感じで。

確かに感じた「人とクルマが一体になる瞬間」

体験を終えて、感想を話す香川編集長

やっぱり最初にコーナーでグワッと振られたときに、「もうこのままコロコロ行っちゃうんじゃないかな」って思うくらいのGがかかったときに、ダッて止まる感覚がありました。「あっいかないこのクルマ」っていう。

これがニュルで、あるいはいろんな道を経て、スープラが技術者の思いを汲んで、ボディの硬さだったり、サスだったり、いろんなところに投影されてる技術なんだろうなって、おぼろげに思いました。

人とクルマが一体になる瞬間があるなって思った。もちろん矢吹さんが運転しているんだけど、その横にいる僕すらもクルマとなんかこう根が生えてつながってるような瞬間があるんだよね。まったく関係ないですよ。乗せてもらってるだけなんだけど。

これはスープラというクルマの特性なのかもしれないですけど、グァーッて振られたときに、全部が一体になって。「人馬一体」って言葉があるけど、まさに車内でその言葉言ってるんだけど、その一体になるんだなー。

いいクルマとは、自分の意志通りに走るクルマ

香川

改めて矢吹さんにとって「いいクルマ」とは?

矢吹

はい。昨日もお話ししたんですけれども、安心安全っていうのが一番。で、特別ピピピって(俊敏に)走る、曲がるとかではなくて、自分の意思通りに走るっていうのが一番大事だと思っています。

香川

安全でよかったです。200キロを超えた安全。200キロの上の安全。ね。

コースを体験させてもらった、スープラの前で。ドライバーの矢吹さんと香川編集長