2019.04.26

ニュルで見た、愛すべき「クルマバカ」たちの情熱

ニュルブルクリンクのピットで香川編集長を待っていたのは、TOYOTA GAZOO Racingのメカニックたち。彼らは全員トヨタで働く社員。レースは初めて、というメンバーもいる。レースに勝ちたいなら経験豊富なプロのメカニックを雇うという選択肢もある中、なぜトヨタは社員だけで戦っているのだろうか。

その意図を探るべく、香川編集長はTOYOTA GAZOO Racingのメンバーにインタビューした。はじめに話を聞いたのはチーム監督を務める金森信明氏。

監督は雑用係!? 独特のチーム運営スタイル

チーム監督の金森信明さん
香川

「トヨタイムズ」編集長、香川と申します。よろしくお願いいたします。

金森

金森と申します。よろしくお願いいたします。

香川

金森さんは、エンジニア出身で、レースの監督ということですね。

金森

はい。ただし監督といいましても、ここの監督は雑用係なので。

香川

いや、何をおっしゃっているんですか(笑)。

金森

普通のレースとはちょっと違っているので。なんか怒られたり、ペナルティーのときに謝りに行くとか、そういう仕事ばっかりで。

香川

普通のレースと違うっていうのは、ニュルブルクリンクはどこが一番、違うんですか。

金森

ニュルブルクリンクもそうなんですけど、われわれの運営の仕方が。

香川

それはトヨタのということですか。

金森

いえ、このチームだけです。

香川

このチームの。

金森

普通ですと監督がいろんな指示をするんですけども、ここではチーフメカニックにいろいろな権限を与えていて、ドライバーとのやり取りもチーフにやってもらってます。

なぜトヨタはニュルブルクリンクで戦い続けるのか

チーフメカニックの平田泰男さん

ということで、次に香川編集長はチーフメカニックの平田泰男を直撃した。

香川

「トヨタイムズ」編集長、香川照之でございます。どうぞよろしくお願いいたします。

平田

よろしくお願いします、平田です。

香川

このニュルブルクリンクでの平田さんのお仕事は、レースではどういうことをされてるんですか。

平田

メカニックの動きを見ています。そこを鍛えるのが一番の目的なので。もっとこういう動きをしたほうがいいよとか、ドライバーのコメントとか聞いて、クルマをこういう方向にしたほうがいいんじゃないかっていうのを、実際にやってるメンバーといろいろ話しながらやってます。

ピット内の様子
香川

トヨタというクルマをつくる会社が、このニュルブルクリンクでレースに参戦する意味ってのはどこにあるんでしょうか。

平田

ニュルは実際に車両開発でも使ってる地ですし。それがなぜレースなのかというと、やっぱりレースってもう時間が全て事細かに決まっているんですね。例えば予選でなんかトラブルがありましたっていうのは、決勝までに直さないといけないわけですね。

普段の仕事だと、ある程度長いスパンで時間があるんですけど、やっぱりレースとなると時間がぐっと圧縮されるので、その中で自分たちで考えながら解決策を見出していく。(レースは)そういうことが自然に身に付いてくるような場所。それが今後の会社生活に役立っていきます。

香川

なるほど。じゃあそれができない人は「もう帰ってもらいましょう」みたいなことになるんですか。

平田

まあ極端な話、そうですね(笑)。

香川

極端な話。ただ逆にそれができると、後々会社に戻ったときに少ない時間でやったことを、もっと長い時間でもっと効率良く考えたりとかいう、仕事量へ、それが大きくなって影響してくるってことですか。

平田

そうですね。

ニュルの経験がハートを強くする

チーフメカニックの関谷利之さん

続いてもうひとりのチーフメカニック、関谷利之にニュルブルクリンクでの経験を通じて得たことを聞いた。

関谷

世界観だとか、会社にいるときに取り組む心構えとか。技能というよりも心の部分、ハートの部分がすごく強くなったという実感があるので、この活動を続けている理由は、クルマも当然なんですけど、一番はやっぱり「人を鍛える」部分ですね。

人がクルマをつくるので。やっぱり両方鍛えなきゃっていう面では、この活動を続けている理由は、豊田社長がいつも言われてる「もっといいクルマをつくる」っていうのは「もっといい人をつくる」ということにつながっているので、これをずっとやらせていただいてると思ってます。

香川

今日初めてのメカニックの方たちをデビューさせて、どうでしたか。

関谷

やっぱり本番はもうみんな顔が大仏みたいになってて。「大丈夫かな、こいつら」と思って(笑)。

香川

でも、それも関谷さんもかつては通過されたことではあったんですね。

関谷

そうです、はい。

香川

そのときに平田さんがいらっしゃったり、成瀬さんがいらっしゃったり、と。

関谷

はい。

緊張感がみなぎるピットで香川編集長が話を聞いたのは、ニュルブルクリンクに初めて挑戦するメカニックの井門洋三と、2年目の加藤惠三だった。

メカニックの井門洋三さん
香川

このニュルブルクリンクは、どれぐらい来られているんですか。

井門

今年が初めてです。

香川

初めてですか。

井門

はい。

香川

ニュル、どうですか。やってみて。

井門

素晴らしいところだと思います。

香川

メカニック1年目。

井門

はい。

香川

やっぱりちょっと緊張したり、しびれたりするものなんですか。

井門

すごい緊張します。

香川

ああ本当に。

レースで目指すのは「安心して運転できるクルマ」

香川編集長はメカニック達にレースに参戦する理由、意味はなんですか?と聞いた。

メカニックの加藤惠三さん
加藤

もっといいクルマがつくれれば、それでいいのではないでしょうか。それぞれ部署の人たちにいろいろな担当はありますけど、お客様が安心して乗っていただけるクルマであれば、それはいいクルマじゃないのかなと。

平田

まあ何回も言いますけども、安心して運転できるクルマじゃないと、ここではアクセルを全開にするだとかブレーキを強く踏むだとかっていうのができないんです。

金森

こういう争いの中でも、いかに安全に走れるか。1人で走っていれば自分の一番いいコースを走れるんですけど、レースの中では思ったとおりに走れない。

だから、そういう操作をした時でも、ちゃんとクルマが安全に安定して、変なことにならないように持っていくのが、最終的な目標かと思います。

関谷

レースは、命懸けで度胸試しじゃないと思っているので。やっぱりどれだけ自分たちがつくったクルマを、運転手さんが気持ち良く走ってくれるか。その結果が速いとか勝ったとかってなるだけで。

愛すべき「クルマバカ」たちの情熱

インタビューを終えて感想を話す香川編集長
香川

ピットにいたあのクルマバカたち。クルマのことを24時間考えてた人たちも、もうクルマじゃないんだよね。クルマはとっかかりで、自分の好きなものなんだけど、そこを通じて自分の限界に挑戦してるだけなんだ。

クルマというソフトと触れ合ったときに、自分の中にあるハードがどこまでこのソフトのすごさを引き出せるかという、ハードに対する挑戦をしてるだけで、クルマをなんかに置き換えたら…やるんだろうなって思うわけ。でも興味のあったものが人生でクルマだったからそこに行っただけであって。なんかクルマであってクルマじゃない、って感じがしんですよね。

それと同時に、レースというのも速さであって速さじゃないんだなっていう。極限ってそういう風に、一周して裏に、紙がめくれちゃってる感じがしてるなってのはすごく思いました。ニュルブルクリンクで。

クルマ好きですよね?

笑顔で答える、関谷さん、平田さん、井門さん、加藤さんの4人
香川

人が良くなるのとクルマが良くなることのその相関性っていうのは、例えばどういうことなんでしょう。

関谷

まずはじめに、クルマのことがすごく大好きになります。

香川

クルマ、お好きでいらっしゃいますよね。

平田

大好きです。

香川

クルマのことを今、どのぐらい考えてますか。

井門

クルマのことは、もう毎日。朝から晩まで。

香川

クルマ好きでしょ。

加藤

そうですね、はい。

香川

クルマ、お好きですよね。

金森

そうですね、昔から。

香川

もう24時間ずっと考えられてますか。

金森

えー、時々忘れるときありますけど(笑)。

香川

あ、時々忘れる。良かったですねー。

金森

眠いなとか(笑)。

香川

(笑)。

笑顔で話すチーム監督の金森信明さん